かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

 世界の呼吸法

佐倉の川村記念美術館佐倉市立美術館で開催中の展覧会『世界の呼吸法  アートの呼吸・呼吸のアート』を見てきました.

照明をおとした暗い部屋の四方を埋め尽くしたいくつもの黒い3枚羽のプロペラがゆっくりと回っています.羽はそれほど大きなものではないのですが,それぞれに照明があてられ,壁には大きなくっきりとした影ができています.よく見ると,それぞれのプロペラには,例えば「1.00 N,32.00 E」というようなキャプションがついています.スピーカーを通して,波の音とボイスレコーダーに録音されたような外国語のモノローグが聞こえてきます.部屋の中央の天井には大きなプロペラがあって,これもゆっくりと回っています.そして,その真下の床には小さなモニターがあって,プロペラを描いたCGが動いています.また,画面にはプロペラだけではなく,壁のプロペラについていたキャプション「1.00 N,32.00 E」などの文字とともに,英語で地名が現れます.コソボウガンダチェチェンソマリアスーダン...どうやら「1.00 N,32.00 E」という数字はこれらの国,地域を示す経度・緯度だったようです.それにしても,これらの地名のほとんどは紛争に巻き込まれた地名ばかりです.よく見ていると,私が今いる佐倉の名前もありました.今,私の立っているここ,部屋の中心が「佐倉」なのでしょう.モニターから目を上げて,四方のプロペラ/世界/人々をあらためて見入ると,一際回転が速くなり,そして,止まってしまいました.まるで,一瞬速く,荒くなった人の呼吸が,死を迎えて止まってしまったように.ふっと息がつまる感じ.少し胸苦しくなります.モニターの近くにこの作品を読み解くためのヒントとなるテキストが貼られていました.世界の他の場所で死を迎える人の最期の呼吸が大気の中に溶け,そして,その大気を私たちもまた呼吸している(大意).
この作品は,KOSUGI+ANDOによるサーキュレーション 息のめぐらし〉というタイトルで,『世界の呼吸法』展のための新作インスタレーションでした.KOSUGI+ANDOは小杉美穂子安藤泰彦の2人によるコラボレーション・ユニットで,1983年から作品を発表し続けています.一見すると,静謐な,決して声高に考えを主張をしている作品ではなかったのですが,その実,見ている者が思わず息を止めてしまうような揺さぶり−私たちが気づかないでいる,あるいは,無意識に隠蔽している真実をつきつけるといった−を感じさせる強靱な作品でした.プロペラが止まった瞬間の怖さはことばでは表しがたい戦慄を伴うものでした.
同じ部屋の片隅には,KOSUGI+ANDOによるもう一つの作品,〈呼吸法II〉が置かれていました.これは,黒いテーブルの上に青白い光で胎蔵界曼荼羅のような図柄が描かれていて,この上に手をかざすと,それに反応して,ひんやりとした息(空気)が手に吹きかけられ,テーブルの上の図柄がいろいろと形を変えるというものです.その図柄,あるいは映像のヴァリエーションが多様で,見ていて時を忘れてしまうほどでした.この部屋でちょっと息苦しくもなっていたのですが,このひんやりとした息でちょっとほっとしたりもしました.

『世界の呼吸法』は,川村記念美術館開館15周年記念の展覧会で,川村記念美術館佐倉市立美術館の2会場で開催されています.日本の現役の美術家,写真家,ファッション・デザイナーらによる新作・旧作が中心ですが,川村記念美術館所蔵の海外の美術家の作品も併せて,展示が構成されています.
上記のKOSUGI+ANDO以外に,おもしろかった,興味深かった他の作品を簡単に挙げておきます.

ファッション・デザイナーの松居エリの作品では,〈呼吸し合う服と身体I 自己同化する他者〉〈呼吸し合う服と身体II 自己同化する他者〉〈呼吸し合う服と身体III OとH2Oにより変貌中の服とボディー〉がおもしろかったです.中でも〈III〉はボディとボディに着せてある服がところどころ溶解(大気に触れると溶ける?)していて,そのさまがなんだかすごくエロティックなものでした.

写真家佐藤時啓は,Tokyo Cameraという名前のついた360度ピンホール・カメラによる作品,〈Toyosu〉〈Yotsuyamitsuke〉を出展していました.風景の中から浮き上がるきらきらとした光の渦が美しかったです.

また,金沢健一〈音のかけら 8つの音の為のドローイング〉は,8つのかけらからなる金属製の円盤が床に9個おかれたもので,これをマレットで叩きながら,見て回る,というものです.音の響きが美しく,時間のたつのも忘れて叩き回ってしまいました.金沢健一の作品では,この他,砂を撒いた鉄板の上に針金を刺したスーパーボールをこすりつけて振動を起こし,美しい砂の波紋を描く〈VIBRATILE SHAPE〉もおもしろかったです.

KOSUGI+ANDO,松居エリ,佐藤時啓は川村記念美術館,金沢健一は佐倉市立美術館での展示になります.


『世界の呼吸法』展ではありませんが,川村記念美術館の常設展示の中で

  • 尾形光琳〈柳に水鳥図屏風〉紙本金地着色・2曲1双
  • 長沢蘆雪〈牧童図屏風〉紙本墨画・6曲1双

が,展示してありました.後者は蘆雪にしてはわりとおとなしい感じの童画のようなものでした.メモしておきます.

『世界の呼吸法』
 川村記念美術館 2005.7/9〜9/4 月休
 佐倉市立美術館 2005.7/9〜8/21 月休
※両会場へは,JR佐倉,京成佐倉からの無料送迎バスが便利です.ただし,本数が少ないので,上記サイトで時刻表をご確認ください.また,会場により会期が異なるので,こちらもご注意を!