かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

 東京国立博物館

に行ってきました.今日は平常展のうち,いつものごとく本館(日本ギャラリー)絵画を中心に見てきました.
まずは特別公開「国宝 仏頭」(特別5室)を見ました.この興福寺の仏頭は白鳳期の代表的な彫刻で,もと飛鳥山田寺の講堂にあったもの.文治3年(1187)に興福寺東金堂に移されました.仏頭自体は破損のあるものですが,とても気品のある穏やかで,初々しい表情がなかなか魅力的なものでした.広い展示室を使い,前後左右からゆったりと見られたのもよかった.また,東京芸術大学の協力による制作工程模型展示「仏頭はどうやってつくられたのか?」が併せて展示してありました.これは仏頭の制作工程を模型やパネルによってわかりやすく解説したもの.仏頭の制作工程がわりと複雑で,意外におもしろかった.
続いて,特別2室の特集陳列「秋の月」.季節柄,秋の月にちなんだ古美術の名品を集めた展示です.すっかり薄の中に沈んでしまった月がなんだかおかしい《武蔵野図屏風》がやはり気になるところ.
近世初期に流行した武蔵野図屏風は,続古今和歌集「武蔵野は月の入るべき嶺もなし尾花が末にかかる白雲」,あるいはこの歌を本歌とする「武蔵野は月の入るべき山もなし草より出でて草にこそ入れ」などに基づいて構想されたもの(参考:キャプションの解説).左右隻とも画面中段を薄が覆いつくしています.左隻の中央には白い雪をいただく富士山が,本作では右隻の後方にも山々の連なりが断続的に描かれいて,「月の入るべき山」があるじゃん?,なわけですが,そのもうひとつの主人公の月は群生する薄の中に描かれています.画面中段を占める薄の後ろに秋草が隠れるように描かれており,武蔵野の秋を密かに演出しています.近づいてよくよく見ると,入り乱れるように描かれる薄の群の中に,そこはかとなく薄の穂も描かれていて,それがなにやら寂しげな秋の雰囲気を醸し出してもいます.薄や金雲による表現を見るまでもなく,武蔵野の秋の景色を装飾的にデザインしたもので,屏風という生活調度に描かれているせいもあってか,絵画というよりも工芸という印象が強い,いや,絵画でもあり工芸でもあるといった方が適当なものでした(そもそも絵画とか工芸といったヒエラルキー的な分類は近代以降のものですが...).
この他に,紀貫之《寸松庵色紙》(「秋のつき山べさやかにてらせるはおつるもみじのかずをみよとか」,平安時代・11c)などの書跡,月の出ている左隻のみ展示の《日月山水図屏風》室町時代・16c),ゴットフリート・ワグネルによる吾妻焼《色絵桧扇図皿》(明治時代・19c)など,月を描いた名品が全部で19点展示してありました.
ちょっとはしょって,7室には

  • 亜欧堂田善《浅間山図屏風》 6曲1隻・紙本着色 江戸時代・18c
  • 久隅守景《耕織図屏風》 6曲1双・紙本墨画淡彩 江戸時代・17c
  • 土佐光起《粟穂鶉図屏風》 8曲1双(中屏風)・紙本着色 江戸時代・17c

の3点が展示.田善《浅間山図屏風》は西洋画の手法を使って,浅間山山麓の風景を描いたもの.水色の空,赤茶の山といった伝統的な日本絵画とはいささかことなる色調がなかなかいい感じで,火山の雰囲気がよく出ていました.《耕織図屏風》は守景がよく描いた四季耕作図のバリエーション.農作業の他,女性たちによる糸繰りなどの様子が描き込まれています.本来は権力者のための勧戒画の1種ですが,本作の時点ではまだ中国の景を借りているとはいえ,田園風景の描出が明らかに主眼になっていると感じられました.また,季節の推移も右方向から左方向へではなく,左方向から右方向へというぐあいに守景の特徴が出ていました.右隻第1扇に描かれている針に糸を通そうとしている女性の姿がなんだか印象的でおもしろかったです.
8室では,

などなど.応挙《虎嘯生風図》は松の下に座った虎を描いたものですが,口の中からちょこんと出ている赤い舌がなんとも可愛らしい.虎猫ですね.探幽《月見布袋図》は月を眺める後ろ向きの布袋を描いているのだと思いますが,淡墨による省略の多い描き方で,タイトルがなければちょっとなんだかわかりません!? 探幽はこういうのも描いたんですね.
最後に1Fの18室を観覧.この部屋でのお目当てはなんと言っても,上村松園《焔》(大正7[1918])です.嫉妬に狂う六条御息所の生き霊を描いたものですが,「六条御息所」というよりも「嫉妬」あるいは「狂気」が前の方に出てきて,やはり凄絶な印象.黒く染められた歯が長い黒髪を噛みしばるところはかなり怖い.着物に蜘蛛の巣と合わせて描かれた長く垂れた藤の花もなんだかげじげじかなにかに見えてきます.やっぱり怖いもの見たさでしょうか(←違うって),この絵の前で足を止める人が多数,でした.
この室のもうひとつのお目当ては,川瀬巴水による版画《東京十二題》のシリーズ.大正8,9年に制作されたシリーズで,関東大震災前の東京の風景が描かれています.そういえば,江戸東京博物館で開催中の『美しき日本−大正明治の旅』展(2005.8/30〜10/16)でも,巴水に1章が割かれていたはず,見に行かねば...
特集陳列以外にも「月」といった秋の面影を随所で見ることのできた平常展でした.他にもいろいろ見たのですが,今日はだいたいこんなところで.