かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

 大徳寺本坊・曝凉展

毎年10月第2日曜日大徳寺本坊曝凉が行われます.曝凉は虫干しのことで,大徳寺本坊に伝わる寺宝約90数点が方丈内に掛けられ,虫がつかないように,風を通されます.この曝凉のに際して,普段なかなか見ることのできない数々の寺宝と方丈が一般に公開されます.ということで,年に1日だけの特別公開にはせ参じた次第です.
早めに着いたので,入口近くで待っていたら,作務衣姿の坊さんがぞろぞろ出てきて,中の年配の坊さんが,フランクに「遠くからようお越しです.9時からなので,もう少しお待ちください」と開場待ちのわれわれに話しかけていったのがちょっと印象的.アメリカ人もいたのですが,こちらには実に達者な英語で同旨のことばをかけていました.
9:00になると受付が始まりました.庫裡の入口で受付をすませ,靴を脱いで上がります.入口の土間に大かまどがあり,これは開山忌などで実際に使われているとのことです.庫裡の1室で大きな荷物を預け(国宝の建物に荷物をぶつけたりしないように,というのが趣旨ですが,やはり身軽になってゆっくり回りたいので,荷物を預けられたのはよかったですね.),大廊下を通って曝凉の会場である方丈へ向かいます.
ふつう禅寺の方丈は南北各3室の合計6室という構成になりますが,大徳寺本坊方丈は,開基の大燈国師を祀った雲門庵とその前室(計3室)を含む特別仕立ての9室からなっています.ちょっとわかりづらいですが,だいたい下記のような感じです.

南側・東から

  • 檀那之間  展示第4室
  • 雲門庵前室  展示第3室
  • 中之間(室中)  展示第2室
  • 礼之間  展示第1室

北側・東から

  • 衣鉢之間  展示第5室
  • 雲門庵 ※南北2室で構成.北1室が背後に突き出ている.
  • 仏間
  • 書院之間  展示第6室

曝凉の会場は,上記で展示室として示した6室になります.第1室(南側・西)から方丈をぐるっとまわって6室へ至る(他に呈茶席の起龍庵にも若干の展示あり),というのが観覧の順路になります.なお,雲門庵仏間は,曝凉の会場ではありませんので,非公開でした.
まずは障壁画について.現在の方丈は寛永13年(1636)に建てられましたが,方丈画は少し遅れて狩野探幽によって寛永18年(1641)に完成したものです.現状の配置が当時のものとは違うなど,問題もあるようですが,とりあえず見ることができたものを簡単に紹介します.
方丈の南面4室には,主に水墨による(一部淡彩)山水図(楼閣山水図?)が描かれていました.ただし,曝凉のためか,襖がはずされていたり,あるいは,壁面に掛幅が吊されているため,障壁画の上方が見えなかったり,と全体を見ることはできませんでした.ただ壁に(かなり)近づいて見ることができたので,なかなかおもしろかったです.実際に見たのは,礼之間8面,中之間12面,雲門庵前室4面,檀那之間6面といったところ.このうち,雲門庵前室東側4面あたりがよかったですね.探幽様式の余白を活かしたシックなできばえです.
方丈北側は公開されている室が2室だけということもあって,ほとんど成果はありませんでした.書院之間の東面,《竹雀図壁貼付》1面《柳鷺図襖》2面ぐらいです.
続いて,数々の書画.大別すると,中国画,羅漢図などの仏教画,肖像画(頂相など),その他の絵画,そして,書というところ.
見どころはそれぞれにあったのですが,なんと言っても,牧谿ですね.中でも,後代の画家たちに甚大な影響を与えた《観音・猿鶴図》(3幅・絹本墨画淡彩・南宋時代)を生で見られたのが最大の成果でした.意外に大きく,もわっとした湿潤な画面が印象的.鶴の羽毛や猿の毛などの表現もよかったのですが,私には《鶴図》《猿図》の描写が強く印象に残りました.牧谿中之間(室中)の北側に《龍虎図》(双幅・絹本墨画淡彩・元時代)とともに掛けられていて,これがすごい迫力.向かって左から《虎図》《鶴図》《観音図》《猿図》《龍図》がずらっと並んでいるさまはちょっとした見物でした.
それから,私にとっては,狩野正信《釈迦三尊像(3幅・絹本着色・15c後半)が見られたのもうれしかったです.普賢菩薩のひげ面をした豪傑っぽい顔つきもなかなかの味なのですが,一押しは文殊菩薩の乗りものである唐獅子クンですね.絵を見る者の方をじろっと見ている目つきがなかなか可愛らしく,いい感じ.中央の《釈迦像》に基づいて描いたと思われる狩野探幽《釈迦如来像》(1幅・紙本墨画淡彩・江戸時代)もあり,探幽が描いたとすればご先祖さんに敬意を表して,というところでしょうか.元信画を模しても,描線や色合いがやっぱり探幽風でした.それから,こちらのお釈迦さんの方が変な顔していましたね.
他にも明兆《十六羅漢図》(16幅・絹本着色・南北朝時代)や数々の頂相など見どころ満載.第6室には,長沢蘆雪《龍虎図》(2幅・絹本墨画・江戸時代)もありました.龍も虎もけっこうすごんだ目つきなんですが,どうも蘆雪が描くと,どこか可愛らしいかったりして.いや〜,おもしろかったですね.
それから,方丈庭園もよかった.大徳寺本坊の庭園というと,南側の枯山水庭園が第一に挙げられますが,この他にも東西北に庭が設えられており,それぞれにいい感じでした.西側の小竹を使った坪庭がよかったですね.
曝凉展のカタログがあったので,これを購入しました.1000円.オールカラーで,ところどころ拡大図もあります.書にはもちろん翻刻も.この他に,大徳寺全般の図録なども売っていました.
年に一度の曝凉展ということもあり,次から次へと参拝客がやってきたのですが,室内に人が多くなると,周囲の廊に出て,庭を眺めて休憩したり,マイペースでじっくりと見ることができたのもうれしかったです.
文句なしにオススメです.行くべし!!

【メモ】大徳寺本坊の曝凉
毎年10月第2日曜日 9:00〜15:30 1300円

大徳寺本坊を出てから,境内を少しうろうろしました.非公開の法堂の内部(天井画は狩野探幽《雲竜図》)を覗けないものか,と思ったのですが,これはダメ,近づくこともできませんでした.仏殿(これは南側正面の扉が開いていて,中を見ることができます...というか本尊を参拝することができます)で天井をあらためて見たのですが,円相だけだとばかり思っていたら,かなり傷んで剥落していますが,向かいあった天女の絵が描かれていました.仏殿には何度も来ているのですが,すっかり見落としていました.相変わらずの節穴ぶりです.


松屋藤兵衛大徳寺納豆の入った紫野松風がおいしいですね)が気になるところでしたが,ちょうどバスが来たので,これに飛び乗ってしまいました.今思うと,一本遅らせるべきだった...(苦笑)