かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

 京都国立博物館・平常展(絵画)

いつものとおり,まずは2Fに上がって,絵画のコーナー(8〜12室)を見た後,2Fのこの他の展示,さらに1Fの平常展という順序で観覧しました.
今回の見どころは9室の小特集『如拙瓢鮎図とその周辺』(会場には明記していませんでした.京博のサイトによります).誰でも知っている,でも,あまり実物は見たことがない如拙《瓢鮎図》(紙本墨画淡彩・1幅・妙心寺退蔵院)を中心に,足利義持サロン周辺の絵画が展示してありました.室町時代水墨画というと,のみならず,の意味合いが非常に強いわけなのですが,いかんせん漢文で書かれており,これが展示会場での一瞥ではどうもよくわからない.そんなわけでちょっと難しい展示でした.もちっと,キャプションの解説にがんばってほしい,と思うのは私だけでしょうか.瓢鮎図はともかく,この他にやはり如拙真筆の《王羲之扇図》(1幅・紙本墨画・京博)がおもしろかった.これは王羲之が扇売りの老婆のために扇面に字を書いてやったところ,この扇がバカ売れしたので,老婆は再度字を書いてくれるように頼んだのですが,王羲之は決して応えなかった,というエピソードに基づくもの.画面はちょうど王羲之が扇面に字を書いているところですが,端の方に控えている老婆がちょっとばあさんに見えない,なんだかとても可愛らしい感じでした.
次の10室は,未完の絵巻を料紙に経文を書いた《白描絵料紙金光明経》(1巻・鎌倉時代・京博),これは料紙の人物図にことごとく目鼻が描かれていないことから《目無経》の異名があります,あたりもおもしろかったのですが,やはり尾形光琳《竹虎図》(紙本墨画・1幅・江戸時代・京博)がよかったですね.この図,思っていた以上に小さなものでしたが,とにかく描かれている虎の表情がいい感じ.若い虎なんでしょうね.いたずら盛りのやんちゃ坊主です.それから,もう1点.英一蝶《蓮鷺図》(紙本墨画・1幅・江戸時代・個人蔵)が印象に残りました.これは上方から,葉を下にしてたれ下がっている蓮の葉に隠れるようにしている白鷺が描かれています.ちょっとめずらしい構図ですね.この画面が実に洒脱,かつユーモラスな味わいがあってよかったな.濃墨で描かれた葉脈が微妙ににじんでいて,それもいい味になっていました.
11室は,まあ恒例ですので,一覧を挙げておきます.

01.海北友松《琴棋書画図》 紙本墨画淡彩・10幅・桃山時代建仁寺
02.海北友松《飲中八仙図屏風》 紙本墨画・6曲1隻・慶長7[1602]・京博
03.雲谷等顔《帰去来図襖》 紙本墨画・4面・桃山時代東福寺普門院
04.曾我二直庵《柏鷹芦鷺図屏風》 紙本墨画・6曲1双・江戸時代・大徳寺

01.はもと建仁寺の方丈画(5室に障壁画あり)で,昭和9年(1934)に室戸台風で方丈が崩壊した際に,保存上の配慮から掛幅に改装,京博に寄託されたものです.大画面,しかも省略なく全10幅が並んでいました.なかなかの壮観と,ちょっと感動.ただ,絵自体は,友松にしてはちょっと狩野派風の筆致で,人物もあまり友松らしさが感じられませんでした.
02.は唐代の詩人杜甫「飲酒八仙歌」に基づく画題.杜甫の詩では,八酒仙と言われた酒好きの詩人たちが酒をしこたま飲んで,談笑する様が書かれていますが,この図はそのうちの4人が,老梅の下,童子を侍らせて,さかんに一杯やっているところが描かれています.おそらくは1双屏風の半双ですね.こちらは01に比べて,人物が友松の特徴をしっかりと表しています.ふっくらとしたシルエットと,表情がいい感じです.たしか,6月にも展示してありましたが...
03.は,陶淵明「帰去来の辞」に取材したもの.04.は,曾我派お得意のに柏をあしらった左隻と,芦と鷺を描いた右隻の一双屏風.
2Fでは,この他,14室(染色)の『近代の技と匠』と題した小特集がなかなかよかった.友禅の見本帳などが興味深かったです.
この後,1Fにもどり,久しぶりに各室を見て回りました.京博では,ここのところ,今月の一品と題して,平常展展示物から1点をクローズアップして,そのちらしを配布したり,サイトで紹介したりしていますが,今月はわれらが(!?)《宝誌和尚立像》鎌倉時代・西往寺)でした.宝誌和尚は1500年以上前の実在した中国の伝説的な僧侶.ときの皇帝,梁の武帝が画家に命じてその肖像を描かせようとしたところ,和尚の顔が裂けて中から観音の姿が現れたので,ついに描くことができなかった,というエピソードに基づいて彫り出したのがこの像です.近くで見ると,タッチがなかなか荒々しくて,それがいい表情を作り出しています.以前にこの像を見ていたとき,やはり近くで見ていた若い女性が「いや〜,顔がさけてますわ〜,いや〜,どうしたのかしら,ほんと,顔がさけて中から別の顔が出ていますわ〜」といつまでも感嘆の声を上げていたのですが,確かにホラー映画に出てきそうで,ショッキングな感じもしますね.でも,よく見ると,和尚さん,なかなか穏やかで静かな表情です.
今回はこんなところです.