かけらを集める(仮)。

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 大倉集古館所蔵 近世・近代の名画 (町田市立博物館)

町田市立博物館で,『大倉集古館所蔵 近世・近代の名画』展を見てきました.タイトルのとおり,大倉集古館所蔵の近世・近代の名画から15点を展示したものです.
近代のものについては,大倉喜八郎の息子,喜七郎が企画・後援した『羅馬開催日本美術展覧会』(昭和5年[1930])への出品作からのセレクトになっていました.会場にはこの『羅馬開催日本美術展覧会』の写真帖や絵はがき,図録(『羅馬開催日本美術展覧会記念図録』上・下2冊)なども展示してあり,当時の日本画壇オールスターによる大展覧会の様子がうかがえました.展示風景の写真により,掛幅や屏風を展示するべく,天井の高い宮殿のような会場に,床の間を作ったりして無理矢理日本家屋の室内空間を模造しているがわかります.それが珍妙なインスタレーションになっていてなんだかおもしろかったです.
さて,展示品のうち,近世のものを挙げておきます.

01.前嶋宗祐《鶏頭小禽図》紙本着色・1幅・室町時代
02.円山応挙《波濤図屏風》紙本墨画・6曲1双・安永8年(1779)
03.歌川広重飛鳥山隅田川佃島図》絹本着色・3幅対・江戸時代後期
04.宮川長亀《上野観桜・隅田川納涼図屏風》紙本着色・6曲1双・江戸時代
05.伊藤若冲《乗興舟》紙本拓版・1巻・明和4年(1767)
06.《百鬼夜行図》紙本着色・1巻・江戸時代
07.鈴木其一《山水図・宮女奏楽図》絹本墨画(《山水図》)・絹本着色(《宮女奏楽図》)・双幅・天保2年(1831)

03は,1隻ずつの展示で,私が行ったときは《隅田川納涼図屏風》の方が展示してありました.画面を右から左へと滔々と流れる隅田川に舟を浮かべ納涼を楽しむ男女を描いた風俗画です.中央に猿曳きを乗せた小舟が1艘.舳先にちょこんと猿が座って,前を見ている姿が可愛らしい.「若松屋」と看板を掲げる小舟では田楽を焼いて酒とともに売っています.田楽を焼いている男の手つきが微笑ましくいい感じ.また,多くの舟が行き交っているのですが,その船頭たち,夏ということもあって,もちろん半裸なのですが,すべからく赤褌姿.これもなんだかおもしろかったです.
05の《乗興舟》ですが,私が行ったときは枚方の少しうしろ「綿々水…」あたりから一屋の少し後「山色高低…」あたりが出ていました.この拓版画はやはり墨色が美しいですね.
07.は,画面を扇形に枠どりし,その中に,それぞれ山水と日本の官女たちが奏楽する様を描いたもの.《山水図》の方が墨画で,《宮女奏楽図》が着色画でした.実はこのうちの《山水図》が今回の最大のヒット.扇型の画面に併せて,地平線も水平でなく湾曲しています.それに並行して山水が構成されているのですが,その湾曲具合が奇妙な効果をもたらしていました.たとえば,崖上の平らになったところで高士たちが談笑しているさまが画面左側に小さく描かれているのですが,これが平らではなく,かなり傾斜しているところにいるように見え,見ているこちらの平衡感覚が微妙に狂ってくるような感じがして,とても奇妙です.また,右寄りには,岩山がにょきにょきと斜め上方に隆起しています.どう見ても重力的にはあり得ない光景.岩山というよりもなんだか巨大な怪物のようです.しかも画面全体が実に精緻な描き込みで満たされていて,その過剰さによって全体的に異界感がすごく強調されています.とてもユニークです.これまで見てきた其一の絵とずいぶん違う印象で,ちょっとうならせられました.
小さな展覧会でしたが(無料!!),なかなか楽しめました.
会期は2005.9/20〜10/23.って,今日が最終日じゃん!