かけらを集める(仮)。

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 吉田博 大正新版画の光[前期]  (中山道広重美術館)

吉田博 全木版画集 洋画家,水彩画家,そして版画家の吉田博(1876〜1950)の新版画の作品を集めた展覧会です(横山コレクションによる).今回の展覧会では,吉田博が大正9年(1920)以降に制作に携わった渡邉庄三郎/渡邉版画店プロデュースの狭義の「新版画」ではなく,大正13年(1924)に渡邉庄三郎のもとを離れて,自分で彫師・摺師を雇い,版画制作を監督するようになってから作品,「自摺」の作品によって展示が構成されていました(この他,参考として歌川広重のものが数点出ていました)〈日本アルプス十二題〉シリーズをはじめとする山岳風景を描いたもの,日本各地の風物を描いたもの,あるいは,インドなど外国の風景を描いたものなど,大正末から昭和前期に制作された作品が多く出ていました(前期と後期で大幅な展示替えがあります).
なんと言っても見どころは,吉田博が伝統的な浮世絵版画の技法にはまってしまって,経済性を度外視して,徹底的にやっちゃっているところですね.これが端的に表れているのが摺りの回数.展示では,96回摺りを重ねた《陽明門》(1938)や80回の《東照宮》(1937)が展示してありましたが,あきらかにやり過ぎ!! 摺りを重ね過ぎちゃって,ずいぶんと茫洋とした色合いになっていました.なんだか大昔読んだバルザックの『「絶対」の探求』を思い起こしちゃったりして...
また,超大判の作品もあり,これは摺師が一人ではできないので,もう一人雇って,二人がかりで摺らせたとか.《雨後の穂高山》(1928.54.5×71.2)と《雲海 鳳凰山》(1928.54.5×82.7←こちらが最大サイズのものだそうです)の2作が展示してありました.これは,いい感じでしたね.
もう一つ,これは展示の冒頭にあったのですが〈瀬戸内海集〉のうちの《帆船》連作.もともとは大正10年(1921)に渡辺版画店から出した《帆船 朝》《帆船 昼》《帆船 夕》《帆船 夜》の4作(確か『浮世絵モダーン』展で見たはず)に,さらに《帆船 午前》《帆船 霧》を加えて,大正15年(1926)に「自摺」作品として再版したもの.縦型の画面に瀬戸内海を行く帆船を大写しで描いているのですが,その図柄をそのまま,時間を推移させたり,霧を出したりして,連作に仕立てています.浮世絵版画の技術を駆使して,光や空気の感じを巧みに出していて(印象派っ!モネの〈睡蓮〉連作みたい!),とてもいい感じでした.


それはそうと,広重の名前を冠する美術館が全国に数ヶ所あるんですね.ちょっと気になってネットでググって見ました.

【メモ】中山道広重美術館 http://museum.city.ena.gifu.jp/top.html 会期:[前期]2005.12/8〜12/25・[後期]2006.1/2〜2/5.