かけらを集める(仮)。

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特集陳列 幕末の怪しき仏画 ―狩野一信の五百羅漢図 (東京国立博物館)

狩野一信(1815〜1863)の描いた《五百羅漢図》のうち,東博本全50幅の展示です.なんでも揃って公開するのは1974年以来のことだとか.50幅がずらっと並んでいるところは壮観.といっても,単に量的に壮観なだけではなく,こうして見ると《五百羅漢図》の世界像が見えてくるわけですね.それがおもしろい.
ちなみに,構成はこんな感じです(カタログを参考にしました).

1〜10 羅漢の日常の姿を描く.
 1〜4:名相 5:浴室 6:授戒 7:布薩 8:論議 9:剃度 10:伏外道
11〜20:六道 衆生を六道の苦から救う姿を描く.
 11・12:地獄 13・14:鬼趣 15:畜生 16:修羅 17・18:人 19・20:天
21〜25:十二頭陀 僧侶の衣食住の欲望を払って生活する12の条件を描く.
 21:阿蘭若 22:常乞食・次第乞食 23:節食之分・中後不飲漿・一坐食節量食 24:衲衣・但三衣 25:もう間樹下・露地常坐 ※「もう」は「蒙」のくさかんむりのないもの.それに10しかないですね,これでは.
26〜30:神通 羅漢が神通力を発揮する場面を描く.
31〜35:禽獣 羅漢がさまざまな禽獣を手なずける様子を描く.
36・37:龍供 龍宮での歓待供養の場面を描く.
38:洗仏等・洗舎利 仏像や舎利を洗い清める場面を描く.
39・40:堂伽藍 寺院建立の場面を描く.
41〜45:七難 羅漢が人々を七難から救う様子を描く.
 41:震 42:風 43:羅刹・悪鬼 44:刀杖・賊 45:枷鎖・盗
46〜50:四州 羅漢の四洲に遊化する姿を描く.
 46・47:南 48:東 49:西 50:北

1幅に2図が貼り合わせてあり,1図に5人前後,1幅に10人の羅漢が描かれています.10人×50幅で500人ですね.羅漢はいずれも容貌魁偉で,光輪を伴っています.絵の大きさですが,1図が本家の増上寺本のだいたい1/4ぐらいの大きさです.わりと小振りです(でも50幅!!).
増上寺本に比べると,毒々しい彩色やおどろおどろしい西洋画風の陰影は弱まっていますが,それでも執拗に繰り返される岩皴や衣紋線,緻密(すぎる!)に描き込まれる細部,そしてなによりも「六道」や「七難」のシーンに描かれる嗜虐的なイメージに圧倒されます.
ただそれだけではなく,笑える,あるいは,微笑ましいところもけっこうあります.第7幅の「浴室」で,羅漢さんたちがそれぞれ髭をぞりぞり剃られたり,爪を切られたり,あるいは毛抜きで髭を抜いたり,後ろの方の浴室で,お湯につかってのんびりしたり...「神通」では水芸!?をやってる羅漢さんもいます.「禽獣」では一角の耳掃除をしているかと思うと,変な顔した白澤もいたりして(34幅と36幅に描かれている虎がへなちょこでいい感じです).
詳しく見ると,いろいろな説話や象徴が隠れているんだと思いますが,それを十分に読み取れないのがちょっと心残り.とはいっても,表面的に見るだけでもなかなかエキサイティングでした.
東博本の他に,本家の増上寺本《五百羅漢図》が2幅,関連資料や増上寺の浮世絵や新版画が数点出ていました.
【メモ】東京国立博物館・本館特別展示室1・2 2006.2/14〜3/26 カタログ(P64.展示されている東博本全50幅+増上寺本2幅をカラーで収録)1300円. また,府中市美術館『亜欧堂田善の時代』(2006.3/4〜4/16)にも増上寺本《五百羅漢図》が出展されるようです.ちらしやサイトでは「第50幅 十二頭陀・露地常坐」の図版が掲載されています.