かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

 二世五姓田芳柳と近代洋画の系譜 −近代の歴史画の開拓者−  (明治神宮文化館・宝物展示室)

絵画館壁画の制作の中心人物であった二世五姓田芳柳(1864〜1943)をメインに据え,併せて関連の明治初期〜中期の画家たちの作品を集めた展覧会.二世五姓田芳柳は初世芳柳(1827〜1892)の次男,義松(1855〜1915)の弟子で後に初世の養子となり,二世を名乗った人.聖徳記念絵画館の壁画制作では,画題調査,考証図作成(80作全部!)などを担当するとともに,本画の制作にも当たり,その中心人物ともいうべき働きをしました.
さて,展覧会は「第一部 二世五姓田芳柳の生涯」「第二部 聖徳記念絵画館壁画と芳柳」「第三部 五姓田塾と明治の歴史画」「第四部 山本芳翠・黒田清輝と歴史画」という4部構成.スケッチ・素描,水彩画,油絵など全164点を3期に分けての展示です(前期5/27〜,中期6/8〜,後期6/20〜).会場配布の「展示一覧」によると,作品は期間ごとに相当数入れ替えがあるようです.また,作品は明治神宮,およびに絵画館所蔵のもの以外にも多く出品されていました.
二世五姓田芳柳の作品は,絵画館から出張してきた《枢密院憲法会議》など「まじめな」歴史画ももちろんあったのですが,むしろ目をひかれたのはちょっと「変」な感じのやつ.たとえば《日光裏見滝真景》(絹本着色.板東市立猿島資料館蔵).日光裏見滝と通りがかりの旅人(というか,遊山客か)が描かれているのですが,手前に茶店があって,そこでオヤジが一人ヘロヘロになって寝て居るんですね.その姿がお行儀悪すぎで,ユーモラスというよりも変な感じです.もう一つ,《大兵士》(1899[明治32].カンバス・油彩.名古屋市美術館蔵).タイトルどおり巨大な(!?)兵士が描かれていて,で,上官たちが「うわ〜,こいつ,でかいな〜」みたいな雰囲気で彼の周囲を取り巻いています.しかも,この大兵士,なんとも無表情なんですね.かなり「変」と言うしかない感じ.実におもしろい.この他にも虎を従えている《羅漢図》(1889[明治22].絹本着色.板東市立猿島資料館蔵)など,なかなかやってくれます.
他の作家の中では,やはり山本芳翠がよかった.再会!の《灯を持つ乙女》(1892[明治25].カンバス,油彩.岐阜県美術館蔵)のホラーな感じも捨てがたいのですが,《エデンの園》(1891,2[明治24,5].カンバス,油彩.東京国立博物館蔵)がかなり不気味で,おもしろかったですね.前景にいくつかの薔薇の花が大きく描かれていて,その根方に蛇(アダムをそそのかすやつですかね?)が鎌首をもたげています.で,不気味なのはこの蛇ではなくて,むしろ薔薇の花なんですね.薔薇というよりも,う〜ん,なんだか食虫植物のような印象で,かなりおどろおどろしい,ちょっと夢に出て来そうな感じです.
それから教科書でおなじみの川村清雄の《勝海舟江戸開城図》(1883[明治16].カンバス,油彩.江戸東京博物館蔵)を初めて生で見ることができたのもうれしいところでした.
他にも初世五姓田芳柳,五姓田義松,チャールズ・ワーグマン,藤島武二黒田清隆青木繁などなど.必ずしも各作家の「代表作」が出ているわけではありませんが,おもしろいもの,興味深いもの,変なもの(!?)も多々あり,予想以上に楽しむことができました(主催者の企画意図からは全く以てかけ離れているわけですが...).また,解説も,いささか二世芳柳を持ち上げすぎかな,という気もしましたが,なかなか充実していました.明治初期の洋画が好きな人にはおススメです.
【メモ】明治神宮文化館・宝物展示室 2006.5/27〜7/2 一般500円 ※チケットは宝物殿との共通券です.宝物殿は開館日が少ないので(土・日・祝日他のみ),ご確認ください.なお,共通券は1ヶ月有効なので,別々の日に行くことも可能です.また,外苑の聖徳記念絵画館の招待券(年内有効)も付いてきます.お得ですね. カタログ2000円(買わず).