かけらを集める(仮)。

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 錦絵の魅力 −描かれた江戸・明治の風景・社会−  (新宿歴史博物館)

新宿歴史博物館の所蔵する約200点の浮世絵から新宿区域と関連の深い50点をセレクトした展覧会.歌川広重歌川国芳ら幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師の作品を中心に,「新宿名所あれこれ」「芝居講談の世界」「閻魔と奪衣婆」「季節の風物・その他」の4つのパートに分けて展示.
おもしろかったのは「閻魔と奪衣婆」のパート.「閻魔」も「奪衣婆」もどちらも時事ネタの戯画になります.
「閻魔」は太宗寺の閻魔像のこと.弘化4年(1847)に酔っぱらいがこの太宗寺の閻魔像の片眼をくりぬいてしまったことに取材した戯画が出ていました.画面には,片眼を刃物でくりぬかれてちょっと情けない風情の閻魔さまを真ん中に,酔っぱらいと彼をとっちめる坊さんを描かれ,余白に詞書きが書き連ねてあります.傍らにくりぬかれた片眼が落ちているのですが,これ変な形です.球形の目玉ではなく,アーモンド形というか,絵の眼と同じ形です.
一方の「奪衣婆」は正受院の奪衣婆像のこと.この奪衣婆像は咳止めの霊験があるとのことで嘉永2年(1849)に爆発的に流行しましたそうです.展示の戯画はこれに取材したもので,(1)奪衣婆同様当時信仰を集めていた日本橋の翁稲荷とペアで描いたもの,(2)奪衣婆・翁稲荷にさらにお竹大日如来を加えて描いたもの,そして,(3)やたらと現世利益をせがむ参拝者に困惑顔の奪衣婆を描いたものの3つの図柄がありました.(1)や(2)では奪衣婆と翁稲荷が首相撲や拳をしていて,流行神のライバルとして描かれています.(3)はことさら滑稽で,漫画のふきだしのように書かれた参拝者たちの勝手な願いごとの誇張ぶりがおもしろく,いささか困り果てた奪衣婆の表情もうべなるかな,という感じでした.
「新宿名所あれこれ」では高田馬場面影橋,関口芭蕉庵,市ヶ谷八幡,神楽坂,内藤新宿,玉川堤,津の守の滝(これは明治になってからの新しい名所)などを描いたもの,「芝居講談の世界」では高田馬場の仇討ち,忠臣蔵四谷怪談,鈴木主水,太田道灌と山吹の里などを描いたものが出ていました.四谷怪談は,髪梳き,戸板返し,提灯抜けとちょっとした怪談名場面集になっているところがおもしろい.この他には,宮川春江《風俗通》(1897[明治30]頃)という美人画の画帖が出ていました.
【メモ】新宿歴史博物館 2006.6/6〜7/2 無料