かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

 「熊田千佳慕 展 花、虫、スローライフの輝き」「山名文夫と熊田精華 展 絵と言葉のセンチメンタル」  (目黒区美術館)

熊田千佳慕 絵本作家・美術家の熊田千佳慕(くまだちかぼ.1911〜)の個展.戦後に描かれた絵本の原画と昆虫や花を描いた絵画(主に水彩)を中心に,他に戦前のデザイナー時代の作品などを加えた約300点による展覧会.壁面に3段組で展示してあり,量的にもたっぷりでした.
ふしぎの国のアリス」「ピノキオ」「オズのまほうつかい」」「ライオンのめがね」といった誰もがどこかで見たことのある絵本の原画を懐かしく見ましたが,やはり,昆虫や花を描いた水彩が(美しいとか,きれいとか,かわいいとかではなく)すごかったです.ファーブルの『昆虫記』を主題にしたシリーズなどですが,その緻密な描写は必ずしも博物図譜的ではなく,昆虫の脚なり,植物の葉なりのトゲトゲした,あるいはギザギザした感じがやや特異な感じで描かれています.しかも,場合によっては,そのトゲトゲやギザギザが背景の風景をも侵犯していたりもします.たとえば《夜間飛行》と題された作品.画面の中央に夜の闇の中,一匹の蛾の舞う姿が大きく描かれていますが,その背景もその蛾と全く同じタッチで描かれ,蛾の姿と同化してしまっている.う〜ん,これ,すごいかも.
戦前の日本工房の仕事なども興味深かったです.熊田千佳慕は実兄の熊田精華が山名文夫の親友であったことから,1934年に日本工房に入社し(1939年退社),主にレイアウトを担当したそうです.「NIPPON」などの他に,資生堂のパンフや鐘紡のポスターなども出ていました.


山名文夫と熊田精華 展 資生堂グラフィックデザインで著名な山名文夫(1897〜1980)と詩人,熊田精華(1898〜1977)の長期にわたる交流にスポットを当て,書簡やはがきなどの資料を通じて,特に山名文夫の詩人としての資質を探ることをテーマとする展覧会.展示には,他に山名の絵画作品や資生堂関連を中心としたグラフィック・デザイン,その他さまざまな資料などが出ていました.
山名の書簡をところどころ読んでみたのですが,端正な文字やユーモアを感じさせる温かい文章など,その人柄を彷彿とさせるものでした.なかなかよかったです.
それから,改めて言うまでもないのですが,山名の軽やかな線で描かれる女性ってほんと美しいですね.見とれてしまいました.


難を一つだけ挙げておくと,両展ともちょっと導線がわかりづらかったのが残念でした.
【メモ】目黒区美術館 会期はともに2006.6/24〜9/3