かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

東海道・木曾街道 広重 二大街道浮世絵展  (千葉市美術館)

歌川広重(1797〜1858)の二大街道浮世絵「木曾街道六拾九次」・「東海道五拾三次」(保永堂版)を中心にとする展覧会.
「木曾街道」,「東海道」とも,それぞれの作品を順にたどっていくと,それぞれの街道を自分の足であるいているような気もしてきて,ちょっとした旅情を楽しむことができ,なかなか楽しかったです.
展示は,この他に「江戸近郊八景」「近江八景」の両シリーズと,近時再発見され,今回アメリカより里帰りした歌川広重自筆『甲州日記写生帳』が出ていました.
また,出品の浮世絵版画はほとんどが初摺の優品で,いずれも大変美しいものだったこともこの展覧会の特記すべき点ですね(一部後摺を並置し,初摺と比較できるようになっている).ちなみに,出品作は《東海道五拾三次之内 丸子 名物茶店(初摺)》(町田市立国際版画博物館)をのぞき,すべて個人蔵のものでした.


「木曾街道六拾九次」
近時,アメリカのコレクターのもとで見いだされた「木曾街道」の初摺・全揃いセット.今回の展覧会の大きな目玉です.
「木曾街道」は,当初は溪斎英泉(1791〜1841)画で天保6年(1835)頃からスタートしますが,24図描いたところで英泉が降板し,それを引き継いだ広重が残りの47図(《中津川》の変わり図を含む)を描いて,天保13年(1842)年頃,完結しました.版元も当初は保永堂竹内孫八でしたが,途中で錦樹堂伊勢屋利兵衛に変わり,完結後に版木が山田屋庄次郎(山庄)に移りました.このように複雑な成立事情だったこともあり,また,「保永堂版東海道五拾三次」に比べ,あまり売れなかった(つまり,あまり多く摺られなかった)こともあって,「木曾街道」の初摺・全揃いセットというのはとても珍しく,貴重なものだそうです.
このシリーズは英泉と広重のものが混在しているのですが,そのためか,両者の個性の違いが素人眼にも露わにうかがわれて,その点,おもしろかった.
英泉のものは,例えば,《深谷》の前景に描かれた芸伎たちとか(英泉らしい美人),《倉賀野》の川の中で遊ぶ四人の子供とその傍らで釜を洗う女だとか,《岩村田》の盲人たちの壮絶な喧嘩シーンだとか(一説に,シリーズ降板を余儀なくされた英泉の鬱屈が描かれている,のだとか),画面の中心に人事を置いていることが多いようです.
これに対して,広重のものは,旅人や地元の人たちと風景を巧みに組み合わせて,「旅」の感覚を多く呼び起こしているように見受けられました.
また,前から気になっていたのですが,広重のものには,線の単純化や色使いの操作によって,火星的風景とでも言うような奇妙な景観がいくつかあって,これがまたおもしろかったです.その代表が《大久手》.なだらかな緑色の丘のかたわらに四角い岩肌が露わになっいて,その描きぶりが,ちょっとこの世のものとも思われない.《上ヶ松》の背景もなかなか奇妙な世界になっていました.


【メモ】千葉市美術館 2006.9/5〜10/9 ※「江戸近郊八景」のみ展示替えあり(《吾嬬杜夜雨》《玉川秋月》《池上晩鐘》《行徳帰帆》は9/5〜9/21,《芝浦晴嵐》《小金井橋夕照》《羽根田落雁》《飛鳥山暮雪》が9/22〜10/9の展示) カタログ(カラーP240)2300円 
巡回展 ▼2007.4/21〜5/27 佐川美術館 ▼2007.9/15〜10/21 郡山市立美術館