かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

大友良英FENオーケストラ「Musics」(山口情報芸術センター)

出演:大友良英(日本)、ユエン・チーワイ(シンガポール)、ヴェンザ・クリスト(インドネシア)、ブー・ニャット・タン(ベトナム)、バニ・ハイカル(シンガポール)、ヤン・ジュン(北京)、リュウ・ハンキル(ソウル)、dj sniff(香港)、Sachiko M(日本)、米子匡司(日本)
主催:公益財団法人山口市文化振興財団
後援:山口市山口市教育委員会
平成26年文化庁劇場・音楽堂等活性化事業
技術協力:YCAM InterLab
企画制作:山口情報芸術センターYCAM
※「sound tectonics #14「大友良英FENオーケストラ/アジア・イクスプロージョン」」の第1日目

2日間あるFENオーケストラの公演のうちの1日目。4時間超。ただ時間が長かっただけではなく、質的にもちょっと笑っちゃうほどすごいものがあった。
まず最初に、SMノイズマンマシーン(仮称。笑。ヴェンザ・クリストさんが磔られていた)が演奏する暗闇から「怖いよ怖いよ」と大声で泣きながら飛び出してきた小さな男の子と、最後には寝落ちしてバンドメンバー約2名に写真を撮られるという、演奏中なのに打ち上げ終盤みたいになっていたヤン・ジュンさんに、本日の敢闘賞を差し上げたい。
さて、どんなライブだったか。YCAM内のいたるところに、機材が設置され、音楽家たちは、自分のタイミングでそれぞれ音を出す。ちょうど「地域に潜るアジア」展が開催されていたが、この会場ももちろん演奏場所として使われていた。移動しながら演奏する音楽家もいる。お弁当を食べたり、居眠りする音楽家もいる。同時開催の展覧会を観にきた、あるいは隣接の図書館に来たついでに立ち寄った人たちも多くは、この演奏空間に好奇心を抱き、聴き耳をたて、立ち止まり、それぞれの形で演奏を愉しむ。
今日のFENオーケストラでびっくりしたのは、必ずしも子ども向けのイベントというわけではないのだけど、観客・参加者に親子連れがすごく多かったこと、しかも、子どもたちが会場で好き勝手に遊んだり、走り回ったり、騒いだりしているのに、それが確実にその場の音楽、演奏の一部となっていたことだ。
ヤン・ジュンさんの演奏は、竹で組まれた床(これは開催中の展覧会のもの)にピエゾマイク?を数個貼り付け、床の上を飛んだり跳ねたりする音を拾って増幅するというもので、もちろん、床の上を動き回るのは、会場にやってきた子どもたち。一緒に来た親たちが、そこに置いてある棒を叩いて、こうやってリズムを出すんだよと子どもに教えるが、子どもはそんなもの無視!自分の好きなように、でたらめに音を出す。ヤンジュンさんはそれを少し離れたところから見守ったり、時々ミキサーを調整したり、という具合。そして、それが、雑音でもなんでもなく、自然と空間に溶け込み、別のところから聞こえてくる物音や歓声と混じって、「音楽」になっている。このヤンジュンさんの演奏/サウンドシステムがいい入り口になって、子どもたちがYCAM全体にいい感じで広がり、会場に散在する音楽家の演奏を媒介していた。
もちろん、子どもたちは、それこそ、ノイズでもあり、音楽家の演奏に躊躇なく介入したりもする。米子さんのインスタレーション風に設置された音具にはすぐに手を出して勝手にいじっていたし、泣き叫ぶ子もいる。
それでも、今日の演奏の場はあらゆるものを受け入れる場であり得たし、その上で、音楽をきちんと成り立たせていた。「場を開く」というのはこういうことだったのか、と思う。
オレはだいたい子ども嫌いで、演奏中に騒ぐガキがいるといらっとして、逆さ磔にしたくなるぐらいだが、今日に限っては、もっとやれやれ!と頭の中で煽っていたし、場合によったら、オレも5人ぐらい子どもが欲しいなと思ったほど(これはちょっとオーバーか笑)。
以前、黒テントインドネシアの田舎で芝居をした時のこと、毎晩、子どもたちが最前列を陣取って、彼ら彼女らに気に入ってもらえないことのは、いい上演にならなかった、という逸話も思い出した(うろ覚えです)。
大友さんは、それこそ珠玉のようなギターソロをやって、普段の演奏会場なら、その演奏の最後の音が静寂の中に収斂されて行くことを観客として望んだりもするわけだけど、今日ばかりは、音が消えていくのに入れ替わって、ざわざわとした話し声や、別の場所の演奏が聞こえてくるのもいいものだなと思ったりもした。
素晴らしい時間だった。