かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

ASUNA「EACH ORGAN」(円盤)

ASUNA 5daysの最終日。この日は、円盤より再発の「EACH ORGAN」がテーマ。最初に「EACH ORGAN」のコンセプトを簡単に説明(ペーパーの配布あり)。その後、40分ほどの演奏(本人はパフォーマンスと言っていた)。演奏終了後、使用楽器を簡単に説明。約1時間ほど。EACH ORGANは、もともとインスタレーションとして発表されたものらしいが、この日はパフォーマンスとして上演された。

EACH ORGANの試みは、オルガンという楽器を、語源論をベースとして、起源論的なとらえ直しをすることである。ASUNAによると、「organ」という言葉は「組み立てられた道具・器具」という意味のギリシャ語「organon」を起源とするが、organonには、同系の言葉として「ergon」=「energy」ということばがあるという。つまり、語源論的にオルガンには、装置としての「機関/器官」という意味があるとともに、その装置が扱う「エネルギー」の意も持っているわけだ。
実際のパフォーマンスには、3台の「オルガン」が使われる。客席寄りの2台はモーターから空気が送られるとリードが震え、微細な音が出るようになっている。奧の1台は空気が通り抜けるだけだが、通風箇所に細い棒を立て洗濯ばさみでその棒を固定することで、特定のリードに空気が流れ、音が出るようになっている。棒は時間の経過とともに1本ずつ加えられ、その度に音は変化する。20本ほども立てられただろうか、最後は再び空気の流れる音だけになる。ASUNAは、iPhoneのストップウォッチを見ながら、物理的な時間の経過の中で、3台のオルガンの電源をオンにし、棒を立て、固定し、最後には電源をオフにし、静寂に戻る、という40分ほどの演奏を行った。
「モーター」よって振動させられた空気が、「自動振動リード」によって、認識可能な、聞こえる音に変換される。空気の中に眠っているエネルギーをオルガンという装置が呼び起こし、そして、耳に聞こえるなにか−−それはひょっとして音楽の根源的な精気ということかもしれない−−へと変容させる。実際に聞こえる音は決して洗練された美しい音ではない。しかし、何か、むき出しになった生々しさ、精気をもった音であることは確かだ。
リードオルガンを解体し、オルガンという楽器の最低限ぎりぎりの要素、空気を送る「モーター」と送られてきた空気を振動させる「自由振動リード」という二つの装置をそれぞれ「機関」と「器官」に見立て、さらにそこから生まれる空気の振動/音を「エネルギー」としてとらえる。「EACH ORGAN」はオルガンという楽器を成り立たせている仕組みを見直し、見直すことで、オルガンの、空気の中に偏在する精気を集約し、それを音/音楽に変換する、という始原的な役割を露わにしようとしている。「EACH ORGAN」の試みはそのことを改めて聴く者とともに経験する/考える試みと言えるのではないか。


2002年に出されたアルバム「EACH ORGAN」が、新しいバージョンの「EACH ORGAN」として円盤より発売された。2曲収録のうち、1曲が今年、2013年5月金沢で新しく録音されたものと差し替えられている。