かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

梅田哲也ツアーパフォーマンス「点音はがし」

※「点音 in 和歌山 2015 鈴木昭男+梅田哲也」のうち。

10年前に和歌山県立近代美術館他で開催された展覧会「鈴木昭男 点音 in 和歌山 2005」の際に、鈴木昭男が設置した点音のポイントのうち、数カ所、10年後の今、たどり直し、耳を澄ませるツアー形式のパフォーマンス/コンサート。梅田哲也とツアーコンダクター/案内者(ボランティア?)によるアレンジ/リミックス/「演奏」が行われている点がミソ。
 受付場所を示す案内板
受付場所の和歌山ニット会館ビルB1「STUG 7th underground」からスタートし、ツアーコンダクター/案内者数人がリレー形式で参加者を誘導しつつ、主に市堀川沿いのポイント9〜12を歩き、最後にゴールとなる北ぶらくり丁会館15を訪れる、というもの。途中、最初のポイント9(中橋袂)には音響的操作が追加されていたが、他の場所は基本的には特に操作はなく、案内者による解説、歩きながらの参加者との会話が主なアレンジ/リミックスとなっていた。ただ、解説のエピソードや会話のモチーフなど、いかにも梅田哲也ないたずら的なものも含めた細かい設定がなされていた点がとてもおもしろい(最後の方で、参加者に気づかれないように、いつの間にか案内者が交代する、というような演出もあった。バレバレだったけれど)。

2005年の「点音 in 和歌山」によるポイント。
9 中橋の袂
10 市堀川プロムナード
11 銀座通り
12 シネマプラザ筑映近くの路地
15 北ぶらくり丁会館
「和歌山市内 点音ガイド」 ※点音 in 和歌山 2015 実行委員会のフェイスブック掲載

まず和歌山ニット会館ビルB1「STUG 7th underground」で受付を済ます。集合時間の10分後に出発。だいたい2名一組に案内者1名がつくという人員構成。STUG 7th undergroundは、本来はバーのようだが、ステージがあり、PAなども整っている。会場内では、BGMがわりに、主に1で録音された?音響作品が流れていた。時間になり、案内者に促されて出発。すぐ裏手の市堀川沿いの遊歩道に出て、川を遡るようにして歩く。もっとも川といっても、和歌山城の外堀でもあるため、どちらかというと、運河という印象。
最初のポイント9「中橋の袂」に到着。ここは点音マークがうっすらと残っている。早速マークの上に乗って、耳を澄ます。橋の上を通る自動車の音や、かすかに聞こえる流れの音、そして、エアコンの室外機の運転音(暑い夏の一日だったので、これはどこでも聞こえてきた)などなど。ここでは、さらに、音響的な操作がプラスされている。その1、スピーカーの場所は確認できなかったが、女性のいささか素っ頓狂な声や植野隆司の弾き語り(部分)などが突発的に聞こえる。割と大きな音で流していた。その2,2番目の案内者がラジオのホワイトノイズを断続的に流している。その3、同人がスナック菓子の袋をがさごそやっている。など、音響が、環境音に介入していた。また、これは10年前の展覧会「鈴木昭男 点音 in 和歌山」の図録で、このポイントでの視覚的印象を「陽光が橋の裏に反映し、そのもやもやが水中で「モアレ」となって図形譜を描いていた。」と書いているが、この日は少し前の豪雨の影響か、運河をいろいろなものが早いスピードで流れていき、それがなにやら楽譜のようにも感じられた。
 市堀川(和歌山城の外堀)にかかる中橋。点音のポイントはこの橋の袂の下。
 中橋の袂の点音マーク。消えて確認できなくなっている場所も多かったが、ここはかすかに残っていた。
 ラジオ。
案内者が交代して、市堀川を少し遡ると、すぐに次のポイントの、市堀川プロムナードに到着。ここは点音マークがしっかりと残っている。T字路の交点で、視覚的には垂直方向に道がまっすぐと開けている。自動車が左右方向を行き交う音や垂直方向へ遠ざかる/近づく音のの交錯がおもしろい。人の声やその他の生活音も聞こえてくる。
 市堀川プロムナード。
案内者はリレー走者のように次々と交代していく。案内者の方と和歌山のことや今目にしている光景のことについて言葉を交わしながら、川に沿った遊歩道を歩いて行く。川のすぐ傍まで建物が建て込んでいるので、さまざまな空調の音がどうしても中心になるのだが、その他の生活音や環境音がうっすらと聞こえてくる。途中、川で魚を捕っている(と思われる)人の出す音も聞こえてくる。
この市堀川をはじめ、昔(昭和中頃?まで)の和歌山市内では川を舟で移動することが割と多く、夏場など、夕涼みがてら繁華街のぶらくり丁あたりまで、舟にのってきたそうだし、また、果物など舟で売りに来て、涼をとるためによく買ったものだという、案内者の方から昔の様子などを伺う(案内者の方も若い方なので、親から聞いた話、という伝聞形式での語りだった)。そして、それがある種の「模造記憶」となって、ほどよいノスタルジーを呼び込みもする。
11の銀座通りは、銀座通りとは言うものの、ほんの短い小路で、左右に小規模なバーや飲食店が数件ある。10年前はどうだったんだろう? もっと賑やかに連なっていたかもしれない。点音としては、本来は、この小路の入口から出口までを移動しながら耳を澄ませる、ということのようだったが、今回のツアーでは入口と出口にそれぞれ立って耳を澄ませてた。このポイントの点音マークはすでに消えてしまっていた。

市堀川は和歌川に合流する。このあたり、繁華街となり、いささか怪しい風俗店なども目に付くが、まだ夕方なので、本来の姿はわからない。どうも寂れているようにしか見えない。観光用に設置されたものだろうか、近くのスピーカーから「和歌山ブルース」が聞こえてくる。
12のシネマプラザ筑映近くの路地も、何の変哲もない大通りへつながる路地なのだが、案内者の方の話された、昔ここでキスをしたことがあるんですよ、というエピソードで、いささか怪しい空間に変貌する(笑)。そして、ここで、ゴールまでの地図を渡され、案内者とは別れることになる。大通り(築地通り)へと通り抜ける。出口付近のビルが上の方で交錯しており、それがおもしろい。
ここからは地図にたよりに、ゴールの北ブラクリ丁会館まで歩く。このあたり、メインの繁華街のようだが、休日の夕方だというのに人はそれほど多くなく、シャッターを下ろしている店も目に付く。
最後のポイントの15は、北ぶらくり丁会館の2Fの通路にあった。通路の手すり越しに、廃業した商店?の裏手、苔の生えたスレートの瓦屋根が目の前にある。下方には、まるでインスタレーションのような、あるいは坪庭のような、整然と「そこにある」という気配の空間があった。夏の夕暮れの静謐で、異界につながっているような、どこか特別な場所。


こうして案内者の方とともに、和歌山市内をほんの少し歩いてみた。ときに立ち止まり耳を澄ませてみたり、ぐるりと周囲を見渡して見たり、案内者の方の話に耳を傾け、ちょっとした感想や疑問を口にしたりといった具合に。耳に聞こえてくるもの、目に見えるもの、あるいは、どこかから漂ってくる匂いといったものに加え、案内者の方の語りによって、ちょっとした町の記憶/人の記憶が加わることで、それらが自分の記憶と混ざり合い、ある種の模造記憶となって、それが自分を揺さぶる、そんな気分にもなった。それはどこか遠いノスタルジーだったり、逆にもっと生々しい何かであったりした。

そして、この町にも、そこここに黄色と黒の海抜の表示があった。