海に生きる・海を描く −応挙、北斎から杉本博司まで− [後期] (千葉市美術館)
前期に引き続いて(前期展の記事はここ),後期も見てきました.といっても,展示替えのあったのは,江戸時代の絵画を扱う「I.江戸時代の人々と海」のみで,このパートは全点入れ替えになっていました.
お出迎えは葛飾北斎《千絵の海》シリーズの2点,《総州銚子》と《総州利根川》.《千絵の海》シリーズは天保初年(1832〜34)頃の版行.いずれも海と漁労が主題の10枚のシリーズ(うち,2枚は校合刷り).展示の《総州銚子》は荒々しい浪が打ち寄せる中,投網漁を果敢に行う漁師の姿を描いたもの.海波のあげる飛沫が印象的.一方の《総州利根川》は一人で四手網を引き上げる漁師の姿が描かれ,こちらは穏やかで明るい雰囲気でした.
さて,後期展の「I」のパートで特に印象に残ったものを挙げると,まずは司馬江漢《犬のいる風景図》(絹本油彩額装.1面.1800〜02年頃).サイズが300×1062と横長パノラマサイズで,なるほど犬のいる港湾の風景が描かれていました.ちなみに犬は日本犬.それから円山応挙《富士三保松原図》(紙本墨画淡彩・6曲1双.安永8年[1779])も.太平洋上から眺めた富士山や三保の松原といったモチーフが水平にずら〜と描かれているのがおもしろい.画面がもわ〜とした大気に包まれていて,松も淡墨で大まかに象られていました.この他に前期に引き続き狂歌絵本『潮干のつと』(喜多川歌麿画・朱楽菅絵編.蔦屋重三郎刊.寛政初年頃)も出ていました.前期とは展示箇所を入れ替えて4丁分を展示(解体して,各丁ごとに額装してある).「貝合図」で締めくくられるのですが,貝合って,裏返した貝を丸く並べてやるんですね.へ〜.(国立国会図書館所蔵本の画像はここ)
続く「II」と「III」は明治時代以降の作品が扱われているのですが,版画,特に1910年代の版画が多く出ています.日本の風景を扱ったシリーズものの比重が大きかったです.気になるところなので,ここで展覧会に出ていたシリーズものをちょっとメモしておきます.
- 『東京風景版画』 中島重太郎の主宰する日本風景版画会が1917〜1920年に全10集を刊行.各集,5点の木版画を木版タイトルのついたタトウで包む.各集の担当は以下のとおり(今回の展覧会に出ていたものを太字で示し,展示の版画タイトルを記す)
- 『日本風景版画 第一集 北陸之部』 石井柏亭 1917年 ※《能登和倉温泉》《能登宇出津港》
- 『日本風景版画 第二集 会津之部』 森田恒友 1917年
- 『日本風景版画 第三集 東北之部』 平福百穂 1917年 ※《塩竃》《松島》
- 『日本風景版画 第四集 下総之部』 石井柏亭 1917年 ※《船橋》《野田》《銚子》《印旛沼》《佐原》
- 『日本風景版画 第五集 天草之部』 森田恒友 1917年 ※《天草群島》《談合島》《牛深港》《二江漁村》《富岡》
- 『日本風景版画 第六集 筑紫之部』 坂本繁二郎 1918年 ※《神の港》《火の海》 ※ブリヂストン美術館『坂本繁二郎展』に5点すべて出ていました.
- 『日本風景版画 第七集 琉球之部』 小杉未醒 1918年 ※《普天間付近》《首里城中山第一泉》《牧港》
- 『日本風景版画 第八集 朝鮮之部』 石井柏亭 1919年
- 『日本風景版画 第九集 東京近郊之部』 石井鶴三 1919年
- 『日本風景版画 第十集 日本アルプス之部』 石井鶴三 1920年
- 織田一麿『東京風景』 石版 1916〜17年 全20点 ※《築地河岸》《品川》
- 川瀬巴水
【メモ】千葉市美術館 2006.6/3〜7/17