かけらを集める(仮)。

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〈日本画〉の魅力にせまる −宇田荻邨《山村》、80年ぶりの公開へ−  (津/三重県立美術館)

三重県立美術館のコレクションから宇田荻邨,横山操の近代日本画,三重にゆかりの近世の日本絵画をセレクトした展覧会で,「第1室:宇田荻邨−《山村》を中心に」「第2室:横山操〈瀟湘八景〉」「第3室:三重の近世絵画」「第4室:曾我蕭白」という構成(なお,常設展として開催の「伊藤小坡の本画と下絵」もテーマ的に重なっている).展覧会の副題にもあるように,1925年の第6回帝展に出品されて以来,長らく行方不明だった宇田荻邨《山村》が三重県立美術館の所蔵になり,80年ぶりに下絵ともども公開される点が展覧会の大きなトピックとなっている.
下絵と本画による宇田荻邨の画風の変遷がわかる第1室,いかにも現代的な水墨表現による横山操〈瀟湘八景〉8点が並ぶ第2室もおもしろかったが,まあ,個人的な興味で第3室,第4室に足が向かってしまう.
そんなわけで,第3室.三重にゆかりのある増山雪斎,月僊,青木夙夜らに加えて,歌川広重《隷書東海道五十三次》(宮・桑名・四日市・石薬師・庄野・亀山・関・坂之下・土山・水口),池大雅の作品を展示.また,特別展示として個人蔵の岩佐又兵衛《堀江物語絵巻》が出ている.
岩佐又兵衛《堀江物語絵巻》(紙本着色・1巻.個人蔵.残欠本)は,2番目の場面(2段目)が開かれ,展示されていた.月若丸の軍勢が安藤太の先導で敵の城に攻め寄せる場面で,詞書の後,前半部分が鎧甲冑に身を固め,武器を手にした月若の軍勢が,後半部分ではにわかの敵軍来襲に驚き,慌てふためく城中の様子が,いずれも細密に描き込まれている.敵討ちに猛進する月若を中心とした軍勢の非情さが武具類の緻密な装飾的描写により荘厳されているその異形さ,一方の城中での老若男女のパニックぶり,一人一人のその表情に強く目をひかれる.ひょっとしたら,全巻開かれているのでは,とひそかに期待していたのだが,これはやはり無理だったようだ.ちょっと残念.この後に繰り広げられる合戦シーンや敵方の幼い2人の若君を討つシーンなどはまたの機会にお預け.
この他では,月僊《東方朔図》(絹本着色・1幅)がなかなかおもしろい.というのも,珍しいことに,まさに仙桃を盗まんとする東方朔の様子が描かれているからで,腰をかがめ,周囲の様子をうかがう東方朔の姿がある意味とてもリアルなものとなっている.これまでに私の見た東方朔図がいかにも堂々とした老人を描いていたのに対し,月僊の東方朔はとてもユニークだった.
続く第4室が本日のメインイベントの曾我蕭白三重県立美術館は国内屈指の曾我蕭白作品のコレクションがあり(18点を所蔵),今回はその中から屏風,襖などの大画面の作品が6点,展示されていた.しかも,今回はガラスなしの展示で,わりと近くからまじまじと見られたのがうれしい.津までやってきた甲斐があるというものだ.展示作品を以下に挙げる.

  • 《林和靖図屏風》 紙本墨画・6曲1双 宝暦10(1760)年
  • 《竹林七賢図襖(旧永島家襖絵)》 紙本墨画・8面 明和元年(1764)頃
  • 《松鷹図襖(旧永島家襖絵》 紙本墨画淡彩・5面 明和元年(1764)頃
  • 《許由巣父図襖》 紙本墨画・4面 明和4年(1767)頃
  • 《松に孔雀図襖》 紙本墨画・4面 明和4年(1767)頃
  • 《塞翁飼馬・簫史吹笙図屏風》 紙本墨画・6曲1双 宝暦9年(1758)頃

※展示室時計回りで.

《松鷹図襖》をのぞいて,いずれもこれまでに見たことのあるものなのだが,何度見てもやはりおもしろく,新しい発見がある.
例えば《林和靖図屏風》.ガラスなしで見ると,奇怪な形態をした梅の木に,金泥がはかれることていて,そのほんのりとした輝きによってより実に生々しい質感が画面に醸し出されている.また,改めて気が付いたのだが,右隻に4羽描かれる水禽,左隻に2羽描かれる鶴の中に,長髪族(!?)が1羽ずつ混じっており,この微笑ましい異形ぶりもなかなかおもしろい.下方に垂れ下がるかと思うと急激に折れ曲がって上方へ向かい出す梅の枝の線も蕭白独特の線だと思うし...う〜ん,きりがない.
もう一作.《松に孔雀図襖》蕭白の大画面水墨画ではしばしばフォーカスされる対象を薄墨で描き,逆に周囲の様子を濃墨で描くという描き方をするのだが,本作にもその技法が用いられている.主役である2羽の孔雀が薄墨で描かれ,それに対し,松や土坡などが濃墨で描かれる.この技法によって孔雀の姿が際だっていれば(事実,際だってはいるのだが),充分効果あり,ということになるのだが,見ているうちに,濃墨で描かれた傍役たちが大いに自己主張を始め,画面全体を支配しようと浸食し始める.例えば,右方の松.この奇怪な形をした松をじっと眺めていると,それはもう松ではなく,松に擬態したエイリアンか何かにしか見えなくなってくる.見ているうちに画面が動きだし,始終別の何かに変態していく.このおもしろさこそが蕭白の第一の特色ではないだろうか,などと改めて思う.
なお,美術館所蔵の松阪の旧家永島家に伝わった一連の襖絵は2004年度から6ヶ年計画で修復が進められており,そのうちの今回展示された2点,《松鷹図襖》は2004年度に,《竹林七賢図襖》は2005年度にそれぞれ修復の終了したものとのこと.
企画展観覧後,常設展と柳原義達記念館の展示を見る.ミュージアム・ショップが16:00閉店で,つい見損なってしまう.失敗.
【メモ】三重県立美術館 2006.11/14〜2007.1/8 一般500円