浮世絵モダーン 深水・五葉・巴水…伝統木版画の隆盛 (町田市立国際版画美術館)
大正から昭和前期にかけて浮世絵版画の技術を用いた「芸術作品」としての版画が多数作られます.狭義には浮世絵商,渡邉庄三郎がプロデュースした伊東深水,川瀬巴水らの作品を指しますが,広義には画家自身が彫師・刷師を雇って「自刷」した「私家版」や,渡邉庄三郎以外の版元がプロデュースしたものも含んで「新版画」と呼んでいるようです.この展覧会は,「新版画」の裾野をやや広めにとり,「浮世絵モダーン」と呼び直し,それらを網羅的,体系的に紹介する展覧会です.展示作が非常に多く,量的にはなかなか見応えのある展覧会になっていました.
実は,昨日『日本のアール・ヌーヴォー 1900−1923』展で見た橋口五葉の作品や神坂雪佳『百々世草』も出ていて,早くも再会した次第.ただ,こちらの解説では,趣旨が違うと言ってしまえばそれまでですが,アール・ヌーヴォーには全く触れられていません.また,風景を対象にした作品では,これも先日見た『美しき日本』展に出ていたものと大分だぶっていましたね.
印象に残ったのは橋口五葉の作品.五葉は初作こそ渡邉庄三郎と組んで作りましたが,すぐに提携をやめ,以後は私家版,自刷によって作品を作っていったそうです.まあ,それはともかく.会場でさまざまな作品が並んでいる中で見比べていると,五葉の描いた女たちには作家の内面が強く表出されている気がして,強く惹かれました.それはこれ見よがしの露悪的な表現では決してなく,人の怖さがそこはかとない肉感によって滲み出ている,というふうに私には感じられました.
川瀬巴水は最初期の細長い版型のもの(塩原温泉シリーズなど)と関東大震災後の《東京二十景》シリーズ,渡邉庄三郎以外の版元から出た作品などが出ていました.渡邉版元でないものは,初めて見たのですが,やはり渡邉版とは違う試みをしており,それが興味深かったです.
この他には,吉田博の渡邉庄三郎版元ではない,私家版の作品や小早川清のダンスを題材にしたものが印象に残りました.
会期は2005.10/8〜11/23.前期(〜10/30)と後期(11/1〜)では相当数の作品が展示替えになるようです.
展示替え一覧は一応展示室にリストが置いてあり,わかるようになっていましたが,やはり,出品一覧リストは配布してほしいところ.それが無理なら,せめて,サイトで公開してもらいたいですね.
他に常設展示室で『版画いろいろ』という版画のさまざまな技法を紹介する常設展と小特集『ホルスト・ヤンセン 描くことに憑かれた男』を見ました.『ホルスト・ヤンセン』の中では,『死の舞踏』(全12点,1973〜74年,エッチング)にちょっと...魂揺さぶられました.ああ.あと,興聖寺所蔵の曾我蕭白《寒山拾得図》(双幅,あのでっかいやつです)に基づいた《拾得》(1988年,エッチング)という作品があって,個人的にバカ受け.なんか正反対ですが.