かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

 天井のシェリー 西野達 展 Tatzu Nishino : Chéri in the sky  (メゾンエルメス・8Fフォーラム)

ちょっと図式的な見方になりますが,この《天井のシェリー》は,非日常性と日常性が次々に転換していくエキサイティングな作品でした.まず第一に,作品にいたるまでの道のりの非日常性.(私などは,メゾン・エルメスに入ること自体すでに非日常的行為なのですが,ま,それは置いておいて)8Fまでエレベーターで上がり,さらに階段で10Fへ,そこからは屋外に出て,仮設の,いささか危うい感じの階段を上がります.いくぶん高所恐怖症気味なので,この仮設の階段を上がるときは,私的にはひえ〜とばかりに鳥肌が立つような,非日常性をたっぷりと味わうことになりました.で,目的の青い部屋に到着.入口で履き物を脱いで,室内におじゃまします.今までのむき出しの空間から一歩室内に入ると,そこは若い女性の私室といったおもむき.いわば日常的な生活空間が広がっています(といっても,おっさんの私には若い女性の居室ということでは十分に非日常空間だったりしたのですが)...広がっているのですが,カラフルなカバーを掛けたベッドの上には「花火師」の像がどかーんと...ここで再び非日常の出現です.こういう具合に非日常/日常のめまぐるしい転換が生み出す意外性によって硬直した感性が揺さぶられるわけで,私などはわくわくした次第です.
公園の一角にあった《ヴィラ會芳亭》(横浜トリエンナーレ2005に出品)が見立ての機知というおもしろさのみで,それほど感覚的な部分に訴えてくるものがなかったのに対し(會芳亭に宿泊すれば自ずから違ったなにかが見えたかもしれません),今回の《天井のシェリー》では作品に近づくための垂直移動が非日常的な感覚をもたらしていて,それが確実に《天井のシェリー》のおもしろさの一つになっていたと思います.
また,「Engel」プロジェクト(2002年.バーゼル)では,教会の尖塔にある天使像を取り込んで居間を設えましたが,写真で見る限り,《天井のシェリー》と同様の垂直移動という過程を踏んで見慣れた空間に至るという作品を経験するシステムは同じなのですが,天使像が居間の調度に見立てられるという,ここでも一種の機知に変換されていたのに対し,《天井のシェリー》の「花火師」は日常的な何かに変換されず,非日常的な存在として,そこに投げ出されている.これがまたおもしろいわけです.「花火師」が若い女の子のベッドの上に出現していることからもわかるように,そこには ベッド→睡眠→夢→夢の中で王子様が...というような経路で連想が働かされることと思いますが,その王子様が白馬に乗ってはいるものの,いかにも王子様然としていないところで,このありがちな連想が今一度ひっくり返されているのもおもしろいところでした.
西野達は1960年愛知県生まれ.ケルン在住.公共建築(の一部)を取り込んだ構築物の中にプライベートな空間/居室を重ねるという大がかりなインスタレーションを得意としています.
【メモ】メゾンエルメス 8階フォーラム  会期:2006.6/2〜8/31 休館:6/21・7/5・7/19・8/16 時間:11:00〜19:00(入場は18:30まで) 入場無料