かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

「平安古経展」他(奈良国立博物館)

特別展「まぼろしの久能寺経に出会う 平安古経展」(東新館・西新館第1室)
名品展「珠玉の仏教美術」(西新館)
仏像写真展「大和の仏たち 奈良博写真技師の眼」(地下回廊)

展示では、普通の墨による写経から始まり、経塚遺品などを交えつつ、装飾経の変遷をわかりやすく、精密にまとめてある。中でも紺や紫といった色の付いた紙に金や銀で書かれたものが興味深い。紺紙に金字銀字という装飾経は知っていたが、紫紙(しし) に、というのは知らなかった(見ても気づいていなかったか?)。紺紙に先立ち、奈良時代によく用いられたとのことで、平安時代になって、紺紙に入れ替わり、紫紙は珍しくなるという(翌日行ったMIHO MUSEUMの「日本美術の愉楽」展にも出ていた)。
料紙の色、金や銀を用いた文字や罫線、蓮華座や宝塔を象っての文字の装飾、さらには、瑞雲や草花・小鳥などの下絵などなど、平安時代を通して、徐々に現れる経典荘厳のためのさまざまな装飾がおもしろかったのだが、なんと言っても、最終パートで紹介された久能寺経が、今回の目玉だけあって、素晴らしいというか、凄絶だったな。
鳥羽上皇周辺の人々の結縁により成った一具(揃え)の『法華経』(一品経。法華経の1品を1巻ずつに書写)である久能寺経(久能寺に伝わったことからこの名称で呼ばれる。なお、久能寺は後に清水市に移転し、鉄舟寺と名前を変える。久能寺経は、元は30巻だったが、現存するのは26巻で、鉄舟寺、東博五島美術館、他、諸家に分蔵されている。中でも、オリジナルの見返し絵が残っている4巻(いずれも個人蔵)は、状態が悪く、長らく展示されることがなかったのだが(「まぼろしの」を冠したのはこのあたりから)、このほど修理が終わり、それを機会に本展で公開されることになった(前後期に分けて2巻ずつ)。つまり、これが展覧会の目玉。
久能寺経は、特に今日観た見返し絵ありの2巻は、荘厳の範疇を超え、濃密かつ豪奢な、料紙から溢れ出してくるような過剰さが、眼を驚かせる。どこかで一線を越えてしまったやりすぎの芸術の典型。ある種の畏怖すら感じさせる。素晴らしかった。