かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

 大坂図屏風 景観と風俗をさぐる (大阪城天守閣)

近世初期に描かれた〈大坂図屏風〉を中心に,中・後期の作例も一部交えての展覧会です.〈洛中洛外図屏風〉にくらべ〈大坂図屏風〉は数もわずかなようですが,近世初期の大坂の景観や風俗がうかがえる屏風がずらっと並んでいました.17世紀前半までの作例はすべて集まっているとのこと.期待以上に見応えがありました.
東博や京博などの展示を見ると,ふつう原本の一部を拡大した写真(図版)を並置するといった展示はなかなかしてくれないのですが,本展では,これでもかというくらい拡大部分図が出ていました.都市の景観や風俗を微細に描いた今回の〈大坂図屏風〉などでは細部を観察しないことにはそのおもしろさがわからないわけですが,肉眼ではどうしても確認できないことが多く,もどかしいことが多かったりします.ということで,この拡大部分図はありがたかったですね.
解説もまあまあわかりやすくてよかったのですが,遊女関連などの解説があまりなかったような...まあ,観光スポットでお子さまの観覧が多いので,ということでしょうか?

以下,おもしろかったものを2,3挙げてみます.

01.狩野派大坂冬の陣図屏風》6曲1双・紙本墨画淡彩 [国立東京博物館]
木挽町狩野家に伝来した江戸後期の模本で,慶長19年(1614)の大坂冬の陣の様子を描いた図.包囲戦を描いたもので,徳川方の軍兵が商人から食べ物や酒を買って,飲食している様子など,戦争の日常が描かれています.これを見ていて,なんだか山口晃の絵を思い起こしました.どこかいびつなユーモアと描き込むことが期せずして批評につながっているような気がしました.


02.《大坂夏の陣図屏風》6曲1双・紙本金地着色 [大阪城天守閣
大阪城天守閣の「売り」の一つですね.この展示の他,4Fではこの屏風の内容を紹介するハイビジョン映像や,武将や旗印などの詳細な紹介がありました.たしかに,それだけのおもしろさのあるものでした.
01のちょっとのんびりした感じもある絵柄とは異なり,こちらは慶長20年(1615)5月7日の大坂夏の陣の決戦の日の光景が写し取られています.右隻には豊臣方と徳川方,それぞれに属する武将たちの対峙する緊迫した様子が緻密に描き込まれています.それに対して,左隻は城の南側で展開した女子ども,町人たちをも巻き込んだ戦闘の様が,まさに酸鼻を極める戦争の惨禍として描かれています.
この屏風絵をぱっと見たとき,我ながらちょっとおかしな連想ですが,前期印象派の絵を思い起こしました.印象派の絵って,近寄ると絵の具の質感ばかりが伝わってきて,何が描いてあるかよくわかりませんよね.だんだんと絵から離れ,距離を置いて見ると少しずつ描かれているものが見えてくる.それに対して,《大坂夏の陣図屏風》では離れて見ていると,何が描かれているのかよくわからない.約5000人描かれているという一人一人が絵の具の一刷毛にしか見えない.それがぐんぐんと接近してみると,逆にその一刷毛が人間以外の何ものにも見えなくなってくるわけです.まあ,逆なんですね.そのあたりが妙に生々しい感じで,絵の内容をリアルにしている,そんな気がしました.
この絵をもとに会田誠山口晃が合作,あるいは競作してほしいなと秘かに思ったりもしています.

【メモ】大阪城天守閣 会期:2005.10/8〜11/13 →展示リスト