かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

 日本の美 三千年の輝き ニューヨーク・バーク・コレクション展 (東京都美術館)

Bridge of Dreams: The Mary Griggs Burke Collection of Japanese Art (Metropolitan Museum of Art Series)ニューヨークのメアリー・グリッグス・バークさんの蒐集した日本の古美術コレクション−バーク・コレクション−の展覧会です.なお,バーク・コレクションの呼称は,メアリー・グリッグス・バークさん個人所蔵のものとメアリー・アンド・ジャクソン・バーク財団の所蔵のものの両者を合わせたものを指すとのことです.内容は,2000年にニューヨークのメトロポリタン美術館で開かれた展覧会を,辻惟雄の監修で新たに再構成したもので,バーク・コレクションという単一のコレクションに基づいて,日本の美術の歴史をたどっています.「日本の美 三千年の輝き」たる所以ですね.
この展覧会は以前,岐阜展を見ています(http://d.hatena.ne.jp/pigmonm/20050806/1123458429).その時は一部展示替えがあり,出品作を全点見ることができなかったのですが,東京展では会期中に展示替えがなく,おかげで岐阜展では見ることのできなかったいくつかの作品を見ることができました.
中でもうれしかったのは,池田孤邨《三十六歌仙図屏風》を見られたこと(図版はここ).最近のマイブームは琳派の「三十六歌仙図」(集合図)だったりするのですが,この孤邨のものもその1作です.これは三十六歌仙を時代不同の歌合の場に集合させたもので,歌仙たちがわりとリラックスした雰囲気で描かれています.この図柄は,尾形光琳に始まり(伝がつくか?),酒井抱一ら江戸琳派に受け継がれていくのですが,歌仙たちの表情など,作家によって微妙に違う味わいがあって,見ていてとても愉しくなります.今回見た孤邨の三十六歌仙たちは,師匠である酒井抱一のものや先輩の鈴木其一のものに比べると,「たれパンダ」度(!?)がとても高く,へにゃっとした感じがおもしろかったですね.ちなみにいちばん「たれパンダ」度が高かったのが「清原元輔」ですね(って,どの人か,わかります?).また「素性法師」の顔色がゾンビみたいっ!で最高です.
展示では,奥行きのあるウォールケースではなく,仮設の展示壁に展示された掛幅が割とあり,これらが間近に見ることができたのもラッキーでした.曾我蕭白《石橋図》,長澤蘆雪《飲中八仙図》《月夜瀑布図》,伊藤若冲《月下白梅図》《双鶴図》など.蕭白の《石橋図》は画面上方の石橋を目指して一目散に駆けていく獅子たちが次から次へと湧き出てくるようで,とてもユニーク.一頭一頭の表情がユーモラスに極めて個性的に描かれています(特に画面の下方の獅子たち).人間世界の縮図にも見えました.また,蘆雪の《飲中八仙図》もなかなか楽しい.これは杜甫の「飲中八仙歌」に素材するものですが,たくさんの人が八仙たちのまわりに集まっている様子を画面の奥から蛇行するように描いています.一見すると,大道芸に群集する人々という感じ.軽妙なタッチで描かれた人物の表情がいい感じで,画面には蘆雪特有のグライダー鶴や円山派わんちゃんもいたりします.それから,時代が前後しますが,霊彩《豊干・寒山拾得図》もおもしろかった.右幅の後ろ向きに岩に座った豊干の顔の輪郭−凸凹を強調した線の自在な柔らかいタッチ−が印象に残りました.
この他で,私の注目したものは,そうですね,池大雅《蘭亭曲水・秋社図屏風》,与謝蕪村《山野行旅図屏風》,呉春《山樵漁夫図屏風》,浦上春琴《春秋山水図屏風》あたりの6曲1双屏風がずらっと並んでいるところ.これ,なかなかの圧巻でした.呉春の人物(ちょっとお猿化している!?)はいつ見ても最高です! 画面を指さして「キャー,お猿さんがいる」と絶叫している(かなりオーバー)人がいて,我が意を得たりというところでした(って,何が!?).
ただ残念だったのは,展示の一部(半分くらい?)が右から左へではなく,左から右へ見るようになっていたこと.掛幅ならともかく,屏風にこれが多く,見ていて,かなり興を殺がれてしまいました.う〜ん.もっとどうにかならんのかい! それから,会期の終了間際に行ったためか,わりと混雑していました.と言っても,入場制限があるほどではなく,後半になると展示の前が割とまばらになっているところもありました.
日本の美術を史的,網羅的に概観する,という視点からすると(個人的にはそれほど惹かれる視点ではありませんが),いささか精粗もあったと思いますが(それはそれとして,個人コレクションでこれができるということがちょっと凄い!),作品の個性を愉しむということでは,個性的な作品も多く,なかなかレベルが高くてよかったのではないでしょうか.