かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

 「日本美術が笑う 縄文から20世紀初頭まで 若冲、白隠、円空、劉生−」  (森美術館)

いろんな意味で天敵の森美術館である.文句を言い出したら,きりがなくなってしまう.そこで,今日は機嫌良く,単純素直におもしろかったところ,よかったところばかりを挙げてみる.
内容的には「2意味深な笑み」のパートがよかった.最初に岸田劉生の《麗子洋装之図(青果持テル)》[豊田市美術館],《麗子弾絃図》[京都国立近代美術館]という2作の麗子像を掲げ,その表現の源泉となった寒山拾得図や近世初期風俗画を見せた上で,さらには甲斐庄楠音へと連続させている.日本美術における「デロリ」とした不気味な笑みの系譜をうまく浮かびあがらせていたと思う.
まあ,個人的な興味としては寒山拾得図にあるわけで,東博の伝顔輝《寒山拾得図》をバストアップ図にした《寒山拾得図》[個人蔵]や長沢蘆雪《寒山拾得図》[高山寺]などがなかなかの見どころ.
また,「デロリ」や不気味とはちょっと路線が違うものの,ギッター・イエレン・コレクションの伊藤若冲寒山拾得図》を見られたのがうれしかった.三角形を組み合わせたような構図がよく効いている.無理矢理構図に押し込められた拾得がとても困って,今にも泣き出しそうな顔つきに見えるのだが,どうだろう.図版で知る作品だが,実物を見ると,若冲のタッチがありありとうかがわれて,やはりいいなと思う.
若冲画はこの他にも数点出ていたが,同じギッター・イエレン・コレクション中の《大達磨図》もかなりなもの.これは「白隠」度のとても高い,「大」達磨さんだった.また,縦長画面に詰め込まれた(で,はみ出している)《白象図》もたいへんよろしい.同構図の蘆雪《牛図》[鐵齋堂]がお隣さんだったのもよかった.
掛幅の類は,他の美術館・博物館だと,ふつう作りつけのウォールケースの背面に掛けられ,やや遠めから見ざる得ないのだが,今回は特設のケースのおかげで,ほとんどの掛幅をかなり間近で見ることができた.中でも蕭白《美人図》[奈良県立美術館]の細部を,赤い肉身線や目や爪といった特徴的な身体描写のみならず,着物や帯の意匠までまじまじと観察でき,私としてはこれだけでも十分来た甲斐があったと言えるほど.蕭白《美人図》はこれまでにも何度か観ているのだが,これほど近接できたのははじめてのことだ.
絵巻や図巻の類は部分展示だったが,一部デジタル画像で全体が見渡せるようになっていた.これはなかなかいい試み.なんだかんだいっても全体は見たいもの.観覧者の一番人気は河鍋暁斎《放屁合戦絵巻》[河鍋暁斎記念美術館]だったが,《つきしま物語絵巻》《浦島物語絵巻》[ともに,日本民藝館]の嫌みのない素朴な造形も悪くない.
素朴な造形といえば,長谷川巴龍(って,誰?)の《洛中洛外図屏風》は相当変でおもしろい.江戸のヘタウマというか,いや,ヘタヘタだな.でも,奇妙な味があって...部分的に拡大できるスクリーンなどもあり,意外に楽しんでしまったのであった.
さて,これを忘れてはいけない.本展のダークホースと言うと失礼かもしれないが,メトロポリタン美術館から来日の英一蝶《舞楽図屏風》は予想外に楽しい作品だった.舞楽を主題にした作品はだいたい演者の完璧なパフォーマンスを切り取って描いているものが多いのだが(俵屋宗達しかり,復古大和絵派しかり),一蝶のこの《舞楽図屏風》では演者がばらばらだったり,こけているものがいたりで(ひょっとして本番ではなくリハーサル中だったりして),この主題の作としてはかなり逸脱的.パロディーというと言い過ぎだが,軽くもじった感じがうまく出ている.いかにも一蝶的な軽妙さが出ていて,目を引かれた次第.
全体的にスマッシュ・ヒットな内容だったし,森美術館サイト展示替えスケジュールも載ったこともあり,お目当ての作品があるなら(なくても十分おもしろいか),行って損はないと思う.
【メモ】森美術館 2007.1/27〜5/6 展示アドバイザー:小林忠,山下裕二(というか,山下裕二色,強し) 展示ケースデザイン:千葉学 図録あり(買わず.いや,買えず!?) なお,ファミマあたりのチケットぴあで前売りを買うべし!特に「一般」の人!!(Pコード:687-124)→図録は、その後、入手した、のである。