かけらを集める(仮)。

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  狩野派の絵画 成田山新勝寺収蔵品から  (成田山書道美術館)

成田山新勝寺の所蔵する江戸狩野派の絵画の展覧会です.出品は17作で,ざっと分類すると,江戸狩野派主流(!?)の絵師たち(探幽,尚信,常信,栄信,養信ら)による作品,狩野一信関係,その他といったところ.中では,やはり,狩野一信関係がおもしろかったです.
一番の見どころは狩野一信《十六羅漢図》(2幅,安政2年[1855]頃).これは成田山の旧本堂,釈迦堂の堂裏の貼付壁画だったもので,明治期に保存のため,掛幅に改装されたました.墨画ですが,ところどころに金粉がまかれ,また,羅漢たちの装身具などが金泥で塗られています.各幅に頭上に円光をいただいた羅漢が8人ずつ,その他に童子や禽獣なども多く描かれています.神通力を発揮する羅漢,縫い物をする羅漢,虎(この情けない感じの虎が実にいい感じ)の怪我を治療する羅漢と童子,鞠にじゃれつく獅子といったモチーフがおもしろい.後の《五百羅漢図》につながる表現が多々あって,なかなか興味深かったです.なお,フランスのギメ美術館にも一信の《羅漢図》が所蔵されていますが(カタログ『幕末の怪しき仏画 狩野一信の五百羅漢図』[2006.2,東京国立博物館]に図版掲載),これは本作とだいたい同じ内容になります(両作の先後関係は不明).また,一信《十六羅漢図》が改装される際に,一信の弟子の逸見一純の模写が新たに壁画として貼り付けられましたが,これも現在は掛幅に改装され,今回の展覧会に《十六羅漢図》が出ていました.当たり前のことながら,そっくりなんですが,こちらの方が画面が褪せていて,よく見えませんでした.
狩野一信《五百羅漢図下絵》(1幅,安政3年[1856])は,釈迦堂の外周を飾る松本良山《五百羅漢像》(木彫・8面)の下絵になります(次項参照).展示は全8幅あるうちの1幅でしたが,こちらもよくよく見ると後の《五百羅漢図》で見かけたモチーフがあちらこちらにありました.また,松本良山のリクエストで,左右上下などの各所から見た羅漢の細部を一信が描いた《五百羅漢尊御首下図》(1冊)も出ていました.羅漢の頭や手などの部分図で,こちらは一信の手元にあったものを後に弟子の一純が新勝寺に奉納したとのこと.
狩野一信関係以外では,橋本雅邦《春秋山水図屏風》(紙本金地墨画・6曲1双,1901年[明治34])に眼をひかれました.まあ,ちょっと見ではなんてこともない山水図なのですが,よくよく見ると,超絶技巧!そして,明らかに江戸時代の山水図とは違う画面の雰囲気.金地墨画というちょっと近代的ではない画面に極めて近代絵画的な世界が立ち現れている...かな!?(画面が遠近法のうちに整理整頓されているだけかも.) これは魚河岸の檀那衆の求めによって描かれ,成田山に奉納されたものだそうです.

【メモ】成田山書道美術館 2006.3/3〜4/23