かけらを集める(仮)。

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 明治の浮世絵 −歌川派の巨匠 芳年と国周−  (町田市立国際版画美術館・企画展示室1)

明治時代の浮世絵界で活躍した二人の歌川派浮世絵師−月岡芳年(1839〜92)と豊原国周(1835〜1900)−をクローズアップした展覧会です.展示は「1.芳年vs.国周 美人画くらべ」「2.芳年、日本の歴史を描く」「3.”明治の写楽”国周」「4.一門の絵師たち」の4章立てで,110点の浮世絵版画が出ていました.
1.は芳年『新柳二十四時』『風俗三十二相』『新形三十六怪撰』,国周『善悪三拾六美人』『開化人形鏡』『開化三十六会席』などの美人を描いたシリーズからそれぞれ数点.文明開化の洋装美人もいましたが,ちょっと崩れた悪婆毒婦が魅力的.
2.は芳年が日本の歴史に取材したものを中心とした展示.芳年はこれらの題材や描写について,師匠の国芳のみならず,私淑した菊地容斎(『前賢故実』※京都大学電子図書館貴重資料画像に全文の画像あり.)からの影響が大きいそうです.神話や伝説の類に取材したものがほとんどなので,「歴史画」というよりも「武者絵」といった方がいいものも多数ありました.展示作は『大日本名将鑑』『大日本史略図会』『新形三十六怪撰』などのシリーズから.画面構成が奇抜なものが多く,それがおもしろかったですね.たとえば《酒呑童子頼光四天王》(『大日本名将鑑』より)は頼光四天王酒呑童子の館で酒宴をしている場面を描いたものですが,絵巻物などの伝統的な画面構成とは異なり,上座に座る酒呑童子の左後方から頼光四天王らのいる座敷を見渡すというちょっと映画のような画面の切り取り方がユニークでした.それから,シリアスな題材ばかりではなく,この章の終わりでは文明開化の東京で見かける(!?)滑稽な場面を描いた『東京開化狂画名所』が数点出ていました.ところで,芳年と言うと,わりと血みどろな場面を描いているという印象を持っていたのですが,実際はそれほどでもないようです.今回も化け物などは画面に登場するものの,「血みどろ」はほとんどありませんでした.
→血みどろな無惨絵は,幕末から明治初年頃まで,芳年が精神的に病んで大スランプに陥る以前に多く描かれたようです.シリーズ名で言えば,落合芳幾との競作《英名二十八衆句》,《東錦浮世稿談(あづまのはなうきよこうだん)》,そして《魁題百撰相》などに多く含まれます.[2006.7/5補記]

3.は国周の役者絵.5世菊五郎を描いた『梅幸百種之内』と9世団十郎を描いた『市川団十郎 演芸百番』の両シリーズが展示の中心でした.ポスターの図柄にもなっていましたが,菊五郎の《英人スペンサー》(『梅幸百種之内』)が私のお気に入り.例の風船(気球)乗りの狂言ですが,画面上部の風船に乗る菊五郎がちょっと可愛い感じ.
4.は芳年,国周の弟子たちの作品.芳年門下の水野年方,右田年英,国周門下の橋本周延,おまけに周延門下の楊斎延一の作品が数点ずつ.このあたりの世代になると,大分浮世絵とは違った感じの作品が多くなります.このパートで一番印象に残ったのは,橋本周延の『真美人』シリーズ.さまざななファッションに身を包んだ明治女性を描いたシリーズですが,色調が淡く,これまで見てきたちょっと毒々しい色彩の明治期錦絵とはずいぶん違う印象です.また,展示作中に描かれた女性たちの多くがきりっと口を結んでおり,1のパートで見かけた花柳界の美人たちが半ば口を開き,舌や歯をのぞかせ,微妙に(いや,露骨に,か?)エロスを見せていたのと対照的な感じでした.
必ずしも芳年や国周を網羅的に,あるいは伝記的に押さえているわけではないのですが,それでも両者の特徴がほどよくわかる展覧会でした.
【メモ】町田市立国際版画美術館 2006.6/24〜7/30 一般400円(展覧会初日は無料)
常設展「凹版−銅版画名作選+メゾチント大特集」(常設展示室・企画展示室2) 常設展は凹版の特集.銅版を直接彫る直刻法のエングレーヴィング,ドライポイント,メゾチント,酸で銅版(金属版)を腐食させる腐食法のエッチング,アクアチントなどの技法(道具類も)の紹介とともにそれらの技法を用いた銅版画が展示されていました.
また,メゾチントについては,19世紀以前のヨーロッパのメゾチント作品とともに,長谷川潔,駒井哲郎,浜口陽三,丹阿弥丹波子の作品が特集展示してありました(長谷川と駒井はメゾチント以外の技法の作品あり).
こちらの会期は2006.6/14〜9/24で,無料で見ることができます.