かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

 亜欧堂田善の時代 (府中市美術館) 

江戸時代後期の洋風画家,亜欧堂田善の仕事を,同時代の洋風表現とともに振り返る展覧会です.亜欧堂田善の大規模な展覧会としては,1980年開催の町田市立博物館『亜欧堂田善展』以来26年ぶりの開催だそうです.学術的な調査研究の成果の発表というよりも,亜欧堂田善の絵画や銅版画の魅力を引き出すことに主眼が置かれていました(もちろん調査研究を踏まえて,ですが).
内容は「I 亜欧堂田善とその周辺」「II 一九世紀の洋風表現のゆくえ」の2章だて.Iでは田善の油絵,銅版画の全貌を見せるとともに,月僊,司馬江漢,谷文晁ら松平定信人脈,あるいは師承関係のある画家たちの仕事や田善が学んだ/素材としたオランダなどヨーロッパの銅版画(の挿絵が入った書籍),地図が併せて展示してありました.一方のIIでは,洋風表現の影響をなんらかの形で承けている19世紀の日本絵画から,谷文晁《木村蒹葭堂像》,渡辺崋山《千山万水図》,安田雷洲,松尾秀山,大久保一丘,浮世絵版画,そして狩野一信の増上寺本《五百羅漢図》などが出ていました.作品数で言うと,安田雷洲と浮世絵版画がわりと出ていました.
さて,亜欧堂田善の油彩画ですが,こうして改めて見てみると,なかなか魅力的です.墨堤を描いたものなど,特にそうなのですが,画面の背景に地平線が広がっており,空間がすごく広々としていることが第一の魅力です.空が陸,海や川と交わるところの色合いがいい感じです.第二に油彩画独特の,いや,江戸時代の洋風画独特のと言った方が相応しいでしょうか,その独特のペインティング感覚ですね.江戸時代の洋風画では荏の油(エゴマの油)や唐辛子,白蝋といったものを画家たちがそれぞれ工夫し絵の具としていたそうですが,そのためでしょうか,空の色など淡いブルーの透明感などとても美しい(時代がついて,多少くすんでいるにもかかわらず,です).《今戸瓦焼図》の窯からもくもくと立ち上る煙や《甲州猿橋之眺望》の石でできた橋(実は木造.でも,石とかコンクリートとかの質感),《墨田堤観桜図》(ここに図版あり)の画面前方,中央を占める松の木の濃い緑などなど,とてもいい感じです.それから,第三に造形感覚のおもしろさですね.特に人物が愉快です.これは油彩画では《両国図》(ここに図版あり)につきます.最初にぱっと見たときには耳鳥斎などの戯画を連想したのですが,これはどうも違ったようで,略筆による誇張によってことさら滑稽な印象を目指しているというのではなく,描き込んでいるうちに自然とこうしたユーモラスな造形に至ったという印象です.どこかひょろっとしたおかしみが好きです.人物だけではなく,T字型の松も,なんだか雨後にひょろひょろ生えてきたきのこかなにかみたいで(!?)とってもおもしろかったです.田善の油絵は全部で15点ほどあるそうですが,この展覧会ではその全点が展示されるそうです(展示替えあり.この日は江戸時代最大の油彩画《浅間山図屏風》は出ていませんでした.以前,東博の平常展で見たことがあるのですが,やはり,これはオススメですね.展示期間は,4/4〜4/16だそうです).
それにしても変!だったのは,月僊《蘭亭曲水図屏風》(6曲1双).展示は左隻のみでしたが,水の流れに沿って詩を吟じたり,一杯やったりの高士さんたちの密集度が異様に高い.まるで流し素麺でもやっているみたい.画面の奥から手前に流れてくる水の表現もおもしろかった.そういえば,先日『ニューヨーク・バーク・コレクション展』で見た池大雅の《蘭亭曲水・秋社図屏風》の《蘭亭曲水図》隻もちょっと変!でしたね.曲水をめぐって高士さんたちがあちらにひとかたまり,こちらにひとかたまりといるんですが,太湖石の穴から見えるグループが,なんだか穴居人!に見えて...


この他に常設展示「小特集 江戸時代の絵画」「戦後の日本美術を中心に」,牛島憲之記念館「初期の作品を中心に」と「府中市美術館公開制作33 恒松正敏『メタモルフォシス』」を見ました.
このうち,「小特集 江戸時代の絵画」では,亜欧堂田善展にも出ていた安田雷洲の銅版画2点の他,司馬江漢《円窓唐美人図》《花鳥草虫図》,長谷川等彝《洋犬図屏風》,谷文晁《駱駝図》の絵画と松本保居の銅版画《四条川原夕涼之図》が出ていました.
府中市美術館公開制作33 恒松正敏『メタモルフォシス』」は,昨日から始まったばかりなので,まだまだこれからという感じでしたが,数点の作品が制作室に展示してあり(展示してあるわけではないですが,ギターも2本),これを見ることができました.それになんといったって,恒松正敏がすぐ目の前にいるわけで...感慨ひとしお(!?)でした.
【メモ】府中市美術館 http://www.art.city.fuchu.tokyo.jp/index.html 2006.3/4〜4/16(会期中,一部展示替えあり.) カタログ2500円.パンフレット「亜欧堂田善の作品をたのしむためのてびき」350円.※セットで購入すると割り引きあり.