かけらを集める(仮)。

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 版画の青春−『月映』の時代の木版画」 (町田市立国際版画美術館)

大正初期から関東大震災までの日本の創作版画(若干の新版画を含む)の流れを追う展覧会.「版画の青春」は小野忠重の著書によるもので,若い作家たちのまさに青春時代をかけての版画作品と,始まって間もない日本の創作版画の歴史における初期の作品の意を込めたタイトルとのこと(ちらしによる).構成は「I 『月映』の作家 死を想う青年のこころ」「II 抒情の風景画」「III 官能の解放」「IV 「生の芸術」の探求」の4部構成で,美術館の所蔵・寄託と個人蔵による作品約160点を展示.
見どころは,副題にあるように田中恭吉,藤森静雄,恩地孝四郎による『月映』を中心としたIの部分で,展覧会では公刊『月映』所収作品を中心に丁寧に追っていました(『月映』は私輯と公刊の2種あり.「私輯」は1914年に田中,藤森,恩地の3人が公刊準備のために3部限定で制作したもので,6輯まで.「公刊」は1914年9月から1915年11月まで洛陽堂を版元に全7輯を発行.部数は200.以上,パンフによる).3人それぞれの,死の影を主題とする作品群の,表現の生々しさに圧倒されました.特に藤森のドイツの表現主義映画を思わせる陰影のコントラストを強調した作品や恩地の「眼」と抽象的な線を組み合わせた不気味な表象にはまいりました.個人的には,田中恭吉に惹かれているのですが,今回の展覧会では,「公刊」所収の作品が中心のため,田中の作品数がやや少なめだったのは残念.《生ふるもの 去るもの》《去勢者と緋罌粟》《冬蟲夏草》など.
また,橋口五葉の版画作品がほとんど出ていました(と言っても,もともと作品数自体少ない).IIで《耶馬渓》《神戸之宵月》,IIIで《紅筆持てる女》《髪梳ける女》《長襦袢を着たる女》《夏衣の女》《浴後之女》の計7作.特に風景版画は実物を初めて見たのでうれしいところでした.また,今年はいろいろなところで見る機会の多い坂本繁二郎の『日本風景版画 第六集 筑紫之部』ですが,他の作家たちによる『日本風景版画』シリーズがわりと旅情を多く感じさせるどこか懐かしいような作品であるのに対し,やっぱりなんだか茫洋としていて,変な感じ.解説では,象徴派詩人との交流云々とありましたが,どうなんでしょう.それから,数点出ていた戸張孤雁の「サーカス」ものもよかったです.よく出る《玉乗り》以外にも《胴返り》《綱渡り》も見られました.
いずれにしろ,1910年代の日本の創作版画の主要なものをまとめて見ることができる展覧会で,なかなかよかったです.章解説,若干の図版(白黒)と展示目録を収録した有料バンフ(6ページ)あり,200円でした(購入).
なお,常設展は前回来たときと同じく「凹版−銅版画名作選+メゾチント大特集」(2006.6/14〜9/24)でした.
【メモ】町田市立国際版画美術館 2006.8/5〜9/24