かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

山形


山形市内には、こうした三角形の建物が多いことに今更ながら気づく。ああ「山」だったのか。

  • 山形へ行ってきた。お目当ては、2014年開催の第1回に続いて、「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2016」の展覧会/展示を観ること。最近の地方で開催される芸術祭の類は、必ずしも美術の展覧会/展示が中核を占めているわけではないので、「展示を観る」だけでは、全体を経験したことにはならないのをここのところ痛感しているわけだが、それでも、まあ、今回もまた展示を「観る」ことを中心に、この芸術祭を回ることにした。山形市内数カ所に分散しているとはいえ、一日で全体を回ることができる、こじんまりとした展示ではあったが、作品を周遊すること自体楽しく、三瀬夏之介や田中望、久松知子の展示、継続的に開催されているシリーズ「東北画は可能か?」展、あるいは未知の画家、スガノサカエの作品など、興味深く、つまり、共感と疑問のせめぎ合うような鑑賞ができ、それはそれでおもしろい一日を過ごすことができた。
  • ここ数年、いわゆる「地域アート」の類は、観客の目から見ると、単に作品を展示する、というスタイルからどんどんかけ離れ、ワークショップ、イベント、プロジェクト(必ずしもアートプロジェクトではない)、などなどさまざまな形で拡張されてきているし、参加者も、作家と観客という二元的なクラスに単純に分類することができず、どんどん多様化している。それだけではなく、芸術祭の真ん中に置かれるものも、必ずしも美術/アートの作品とは限らなくなっている。つまり、なんとなく「芸術」「クリエイティブ」に関わる何事かではあるが、コアな美術/アートの展覧会ではなくなっている。総合文化イベントというか、観光の再編/再起動へと確実にシフトしていると思う。
  • それはそれとして...
  • さて、最寄り始発で東京駅まで。つばさに乗り換え、東京6:12→8:57山形と定刻通りに到着。雲の厚い天気だったが、山形に着くと、大分雲も薄く、ところどころ日も差している。駅の待合室にある観光案内所で、レンタサイクルを借りる(城下町やまがた観光レンタサイクル)。無料。自転車は新しく、まあまあ乗りやすかったが、変速ギアはなく、アップダウンのあるところはちょっと大変だった。借りられる時間は、9:00から17:00で、返却は、市内に数カ所あるレンタサイクルステーションのどこでもよい(駅の観光案内所で借りて、市役所近くのローソン山形七日町一丁目店で返却した)。
  • 早速、山形市内の観光へ。前回来た時はビエンナーレの展示しか回らなかったので、今回は少し観光も織り交ぜた次第。霞城公園(山形城址)→山形市郷土館(旧済生館本館)→山形美術館→最上義光(よしてる)歴史館と回る。山形美術館の他は、無料。


山形市郷土館(旧済生館本館)

後方に円形の回廊がある。エリザベス朝のロンドンの劇場を思わせる...

  • 山形美術館は、企画展・特別展の他に、常設展として、長谷川コレクション室(山形の実業家、素封家の長谷川家(2家)の代々が集めた書画を中心とするコレクションからセレクトして展示)、新海竹太郎・新海竹蔵彫刻室(山形出身の近代彫刻家、新海武太郎と弟子でその甥の竹蔵の作品を展示)、吉野石膏コレクション(吉野石膏株式会社、およびに吉野石膏美術振興財団から寄託されたフランス近代絵画の展示。なお、近代の日本美術は天童市立美術館に寄託されている)を3本柱とした展示を常時開催している。最近、HPが新しくなり、全貌がつかめるようになったが、以前は、オレ的には、(長谷川コレクションが気になっていたのだが、何がいつ展示してあるのか)全然わからなかった謎の美術館笑 県立、市立ではなく、民間主導の財団法人による運営。今回の訪問では、長谷川コレクション室では、谷文晁なども目を引いたが、北斎の肉筆掛け幅3件が渋くてなかなかよかった。(あと、蕪村《奧の細道図屏風》は複製が出ていた。)
  • 以下、市内に散在する会場を回って、ビエンナーレの展示を観覧。まずはメイン会場の文翔館(正式には、山形県郷土館「文翔館」。旧県庁舎、および県会議事堂)を観覧。ここに、インフォメーションセンターがあるので、ここでマップなどを入手した。展示は、前庭や中庭なども含め、館内・敷地内の数カ所に散在。文翔館内には、ビエンナーレの展示の他に、山形市の文化や歴史を紹介する常設展もある。


文翔館。今回は各会場にバス停のような看板が立っていた。

  • 続いて、洗心庵(山形県緑町庭園文化学習施設「洗心庵」)に移動。自転車で数分。途中、今は山形県立博物館教育資料館になっている旧山形師範学校本館(明治34年)の外観を観覧。岩城亘太郎の手がけた庭園がある文化学習施設で、ここの多目的ホール(といってもそれほど広くはない)に、三瀬夏之介の作品「山形の絵 小盆地的宇宙」が展示されている(他にも、庭園に、見立てに基づき、小さな船のオブジェが置かれている)。タイトルの通り、山形(県の形)がモチーフとして作品の中に埋め込まれている。会場故か、破天荒な野蛮さは感じられなかったが、凝縮された小宇宙が多面的に作り出されている。


山形県立博物館教育資料館(旧山形師範学校本館)

  • 次は、市街から少し離れた山形芸術工科大学に向かうが、途中で、旧西村写真館とギャラリー絵遊・蔵ダイマスに立ち寄る。
  • 旧西村写真館/華雪「ひとりの女が家の中に座っている」。廃業した写真館を使って、インスタレーションのように書作品を展示した華雪作品の生み出す濃厚なイメージは、その場で生涯を過ごしたかもしれない女の一生を生々しく喚起する。
  • ギャラリー絵遊・蔵ダイマス/田中望「山の神の縁日」。ギャラリー絵遊に展示の作品は2階上方の天井から吹き抜けを下の方、床面まで伸びる大作で、瀧山大権現をモチーフにした、参詣曼荼羅のような作品(富士参詣曼荼羅あたりを連想)。踊る兎は、山の上の方から、わらわらと沸くように踊りながら降りてくる。ドメスティックな風景とポップ/かわいいが入り交じった不思議な感じ。もう一つの蔵ダイマスでは、制作中の山形各地に残る奪衣婆を題材にした墨絵絵巻が広げられていた他、小品がいくつか。
  • ちょうどロがあったので、ここでコーヒー休憩をし、芸工大キャンパスに向かう。前回は巡回バスに乗り、ずいぶんと遠かった記憶があったのだが、自転車で行ったところ、それほど遠くは感じなかった。ただ、道は途中から上り坂になり、ギアなしの自転車だときつい。つい、一人弱虫ペダルごっこをして、へろへろになってしまうなど。前回来た時は、学校が休みだったせいか、ひっそりとしていたが、今回は何やら行事(学祭?)の準備中で、キャンパスには学生諸君があふれていた。本館を観覧し、4日に行われた鈴木ヒラク吉増剛造のパフォーマンスの痕跡などを観覧。続いて、実習棟に移動し、3室に渡って展開されている東北画とは何か?「地方之国現代美術展」を観覧。近所の若いお母さん方がこどもを連れて観に来ていた。


だらだらした坂が延々と続くのだから、ちょっと燃えるじゃないか笑

  • ひとわたり見て回ったので、ぼちぼち市街に戻ることにする。今回のビエンナーレでは巡回バスはなく、路線バスだけなので、時間を有効に使う点でも、自転車で回れたことはラッキーだったなと。帰りは下りなので、一気に。市街までの途中で、やまがた藝術学舎(旧山形県知事公舎・公館。2011年OP。東北芸術工科大学が運営)に立ち寄り、大橋文男の映像インスタレーションなどを観覧。門を入ったところに、石仏があり、心引かれるなど。
  • 市街に戻り、ミサワクラス(旧旅館)の大槌秀樹(映像インスタレーション)、山形まなび館(観光交流センター「山形まなび館」。旧山形市立第一小学校。昭和2年)の展示を観覧。ここで、16:00を回ったので、自転車を返却。駅まで戻ると、戻ってくるのがたいへんなので、最寄りのステーションのローソンに返却する。
  • ここからは歩いて移動し、とんがりビルとBOTA theaterの展示/ショップをざっと見て回る。
  • これで、展示一通り観覧。さすがに疲れて、へろへろだが、文翔館の近くに戻ってきたので、前回来た時にも立ち寄った近くの古本屋を覗き、文庫本を1冊購入。文翔館のベンチで一休みする。スタッフが明日のイベントの準備をしていた。
  • 帰りの新幹線までまだ時間があるので、ぼちぼちと山形駅方面へ歩いて戻る。途中で、適当な夕食を適当に食らう。今回も、グルメなし。
  • 帰りは、19:31発のつばさ。信号機の支障で、数分遅れて乗車。金曜日の夜なのか、指定席は売り切れ、自由席も混雑している模様。隣席のサラリーマン?がPCをいじり出して、少々難渋など。東京駅には定刻に到着。乗り換えて、最寄りまで。まあまあ無事に帰宅。