かけらを集める(仮)。

日記/旅行記+メモ帳+備忘録、みたいなものです。

 京都国立博物館・平常展(絵画)

さて,恒例の京都国立博物館です.今回は時間の都合もあり,平常展の絵画にしぼって見てきました.京博に出かける際には,京博のサイトの展示案内で展示物をチェックするのですが,記載がわりとおおまかで,必ずしも展示物全点がリスト・アップされているわけではありません.したがって,当日会場で意外なものを見ることができて,思わぬ拾いものとうれしくなることもしばしばありますす.今回も以前から実際に見たかった絵を思わぬところで見ることができてラッキーでした.次に私的に目玉だった11室(近世絵画)の展示リストを書き出しておきます.

展示期間:2005.9/7〜10/2
−11室(近世絵画)−

  1. 狩野山雪《蘭亭曲水図屏風》 8曲2双・紙本金地着色 江戸時代 [京都/随心院
  2. 狩野山楽《唐獅子図屏風》 4曲1隻・紙本金地着色 江戸時代 [京都/本法寺
  3. 狩野永岳《山水図屏風》 6曲1双・紙本墨画淡彩 江戸時代19c [京都国立博物館
  4. 漲川永海《花籠図》 1幅・絹本着色 江戸時代17c [個人蔵]
  5. 狩野山雪《磐谷図》 1幅・紙本墨画 江戸時代17c [個人蔵]

今回のお目当てナンバー1は,なんと言っても1の《蘭亭曲水図屏風》です.蘭亭曲水の故事は,中国の晋の時代,永和9年(535)3月3日,王羲之が41人の名士と会稽山陰の蘭亭に会し,禊事を修して,曲水に觴を流し,各自詩を賦したことに由来するもの.この故事,画題として頻繁に採り上げられ,ネットで検索しただけでも,実に多くの絵画が描かれていることがわかります.本作の作者,狩野山雪自身も他に東本願寺建仁寺興雲庵の障壁画に蘭亭曲水図を描いていたようです(両方とも現存せず.ただし,前者には小下絵が残っているそうです).8曲2双(4隻)という特異な形式で,4隻の屏風が横に長く並べ置かれているのを実際に見たときはいささか異様な感じもしなくはなかったです.画面は美術全集の図版で見知ってはいたのですが,こうして実物を眼前で見ていると,当然の事ながら,図版では気づかなかったいろいろなところが見えてきます.特にやや離れて全体を一望すると,奥行きのあまりない横に広がるちょっと窮屈な感じもなくはない構図のおもしろさ,奇石・奇岩とさまざまな樹木によって構成される前景や背景のユニークさなどなど,数え上げたらきりがありません.中でも目についたのが,実に窮屈そうに流れる曲水の水面.青灰色に彩色されたその水面は見慣れぬ色合いで,しかも,そこに描かれたやや病的に震える波紋がいかにも《老梅図襖》(メトロポリタン美術館を描いた山雪らしさを感じさせるものでした.
2の《唐獅子図屏風》(「伝」となっていますが,狩野山楽の作と言っていいと思います.キャプションにもそうありました)は,これも図版で知っていたものですが,実際に見ると,実物のもつ大きさや力強さに圧倒されるようです.狩野永徳の画風をもっともよく継いだのが山楽であった,というのも首肯されるところです.ところで,この屏風の唐獅子は雌なんですってね(キャプション).知りませんでした.そうか雌なのか...
3の狩野永岳は,幕末に活躍した京狩野の9代目(そうか,今回の11室のテーマは京狩野だったんですね).私の見知っていた永岳の作品は,金地濃彩のどちらかというと「濃い」印象のものが多かったのですが,本作は,南画の風味がはいっており,意外な印象を受けました.
4と5の2作はサイトにリストアップされていなかったものです.4の漲川永海は,私にとって未知の画家ですが,京博の解説によると,狩野山雪の親友だったそうです(『本朝画史』).残念ながら残っている作品は少ないそうです.
5の山雪《磐谷図》を見ることができたのは,うれしかったですね.狩野派決定版』の図版で見て,ぜひ一度は実物を見たい,でも,個人蔵だから『狩野山雪展』みたいな展覧会でなければ,なかなか見られないのでは...と思っていたところ,図らずも京博平常展で見ることができました.寄託になっていたのですね.絵自体はそれほど大きなものではありませんが,そこにみっしりと描き込まれた奇景が殊更目をひきます.画面右方に水晶のように鋭角に佇立する山や岩,そして左方にはそれと対応するように波濤が逆巻きうねっています.このワイルドでややいびつな世界が1幅の掛幅の中に封じ込められている.画面の中央やや右寄りには,海岸の風景をまるで他人事のように淡々と眺める高士たちの姿もあり,画面の不可思議さを大いに高めています.私はひそかにバラード的世界を見ているのですが,いかがでしょうか.
京博では,他にも興味深い絵画もあったのですが,それはまた今度(って,実は来週また京都へ行くので...)